桜舞う校門とふたりの距離
桜の花が散る校門前。
小柄で色白な少年――冬木 湊。南城西高校に通う、ごく普通の高校生だった。
?「よっ!!」
その後ろから話しかけるガタイの大きい男がいた。
彼の名は桐谷剛
彼もまた南城西高校に通う高校生だ。高校生とは思えないガタイに、ソフモヒで精悍な男らしい顔に細い目、日に焼けた褐色の肌色で見るからにスポーツマンとわかる。
湊「うわっ!剛くんか……驚かせないでよ」
湊はびくりと肩をすくめた。
剛「あ〜ごめんごめん。いや〜なんか相変わらず、辛気臭そうな顔してんな〜と思ってな。元気出せよ。今日から新学期なんだからさ〜」
剛が笑いながら湊に話しかける。
湊「は〜また君と同じクラスか…… なんか嫌な感じ…」
湊は若干不機嫌な顔をした。
剛「そんなこと言って〜〜、本当はうれしいくせに〜〜」
剛は無邪気に笑いながら、湊を見る。
湊は赤面して顔を背ける。
湊「いや、全然嬉しくないね!!」
湊はそう言いながらも、内心また剛と同じクラスになれたのを喜んでいた。
湊(……また同じクラスか。やだな……嬉しいけど)
自分でもわからない複雑な感情を、湊はくしゃくしゃに押し込めた。
二人はそのまま教室に入っていった。
教室に入ると男たちの騒がしい声と女子の笑い声が聞こえた。
?「おい!!やめろ!!それは俺の秘蔵の美少女コレクションなんだ!!」
その声の主はフェードの茶髪に鍛え上げられた体を持った大柄な体に日焼けした褐色の肌に、精悍な貫禄のある顔
彼の名は、滝川 蓮。
剛と同じラグビー部に所属している。
彼のカバンから美少女フィギュアやポスター、
?「そんなもの学校に持ってきてるのが悪いんでしょうが!!」
少女の怒りの声が聞こえた。
明るい栗色のショートカット、に淡い茶色の瞳
彼女の名は成瀬 ひまり、空手部の主将で風紀委員をしている。
蓮「そんなものとはなんだ!!
これはこの素晴らしい作品をより多くのものに布教するためだ!!
寧ろ学校の風紀を正している!!」
蓮は自分の主張の正当性を訴える。
ひまり「は〜!!学校教育に関係ないものを持ってくるのはやめて!!クラスの評価が下がるでしょうが!!」
ひまりが至極真っ当なことを伝える。
蓮「クラスの評価が下がる……?
この美少女ファイルには、全ての男の夢と希望が詰まってるんだ。
つまりこれは文化財。人類の遺産と言っても過言ではない!!
むしろ国宝級だ。俺はクラスの誇りを守ってるんだ!!」
蓮は政治家の演説のように抗議した。
ひまり「……ねえ滝川。今、自分が何言ってるか分かってる?」
ひまりが無表情で睨む。
(間)
蓮「当然だ。俺はいつだって真剣だ」
曇りなき眼差しでひまりを見る
ひまり「はああああ!?」
ひまりは宇宙人を見たように驚く。
蓮「まさか……お前、俺のコレクションが巨乳ばっかりだから嫉妬してるのか……」
(間)
蓮「安心しろ。俺は貧乳も大好きだ」
ひまり「誰が貧乳じゃボケェ!!」
ひまりは激昂し、上段蹴りをお見舞いする。
その一撃で蓮が、失神した。
クラスはいつもの日常のように笑いながらその様子を見ていた。
剛が蓮に近づく
剛「お〜い。起きろキモオタ馬鹿」
剛が蓮を起こしに軽く声を掛ける。
蓮「!!俺のコレクションは!!」
蓮が跳ね起きる。
剛「それなら、ひまりが職員室に持っていった。」
剛が冷めた目で淡々と答える。
蓮「なっ!! 何故止めない!!」
蓮が剛に問い詰める。
剛「お前……監督に殺されてーのか?」
剛のその言葉を聞き蓮は、青ざめていく
剛「今日は、始業式だ。さっさと準備しろ。」
そう言うと、剛と蓮は始業式の準備をセコセコと始めた。
その日は始業式であった為、特に授業もなく、早く終わった。
剛「は〜〜、この後部活か〜……」
剛は憂鬱そうに愚痴を零した。
湊「なんでそんな憂鬱なの?」
湊が質問した。
剛「あの馬鹿が、また問題起こしたから、監督からこってり絞られるんだよ…… 俺まで……
良いな〜美術部は……今日部活ないんだろ?」
剛は苦笑いしながら答える。
湊「うん。ま〜ね」
湊が軽く笑う。
剛「良いな〜。さて行くか… おい、馬鹿行くぞ。」
剛が、蓮に声を掛ける
蓮「馬鹿とはなんだ!馬鹿とは!」
その言葉と同時に剛と蓮はグラウンドに向かう。
剛「じゃ〜な〜」
剛は無邪気な笑顔を湊に向け蓮と共にグラウンドに向かった。
その後ろ姿を見送り湊も帰りの準備をし、そのまま家についた。
湊は部屋に荷物を置く。
男の部屋に似つかわしくない、美しい化粧品が机に並んでいた。
湊はそれをじっと見つめ――そっと、ひとつ手に取った。