3.
――あれから数週間。
今日も白衣の男達に連れて行かれ、研究という名の人体実験が行われていた。
「今日はちょっと多めに抜くからな。」
そう言って白衣の男達はレイシアとリンシィを椅子に座らせ、身体を固定させる。いつもの注射器が2本から今日は5本に増えている。
「痛くないよ。」
と声をかけられるがそれどころではない。私たちはこの注射器が痛いことを知っている。6歳の少女だ。怖いと感じるのは当然だろう。
血の採取は無事終わったがフラフラする感覚に襲われた。
リンシィも同じだろう。
少し休んでいる間に白衣の人が増え、何やら話をしているが頭が働かず内容が分からない。手に持っているバイタルボードやモニターを見ているから、今後の人体実験の事だと察しをつける。
その後別々の部屋へ連れて行かれたレイシアとリンシィ。レイシアはリンを心配に思いながらも、自身も不安である事を必死に紛らわそうとしていた。
魔力の実験だと言われ、薬を飲まされ、体に機械をいくつも付けられた。言われた通りの事をしようと、魔力を出す為に力を入れた瞬間、激痛が走った。
「キャッ!」
思わず声を上げて唖然とする。
「何をしてる。もう一度だ。」
いつも何かを記録している白衣の男にそう言われる。もう一度だと言われても……。力を出そうとした瞬間激痛が走ったのだ。同じ事をやれと言うのか。
躊躇していると
「早くやれ!」
と怒鳴りつけられた。
ビクッとしたが、やるしかないのだと頭は理解していた。あの記憶が蘇る。リンシィは大丈夫だろうか…。そう考えながら、意を決して魔力を使う。
「――ッ!」
さっきと同じく激痛が身体中を襲う。しかしここで辞めるわけには行かなかった。
私が失敗すれば、その皺寄せはリンシィに行くに違いない。そう思うと激痛にも耐えることができた。
どのくらい時間がたったかわからないが、数時間後、ようやくこの部屋から解放された。
部屋に戻るとリンシィもいて、私を見て抱きついて来た。
「レイィー!」
リンシィも同じことが行われていたのだ。リンを抱き締めながら、なんとかリンシィだけでも解放してもらえないかと考える。
ガチャ――
扉が開く音がして顔を上げると久しぶりに会う母がいた。私はあの記憶を思い出し、身構えてしまった。
「お母さん!」
リンは母の姿を見るなり抱きついて行った。私はハッとして同じく抱きついた。
私が未来を知っていることは誰にも言ってない。バレるわけにはいかない……。
「あらあらどうしたの?泣いてたの?」
母は甘えるリンに優しく問いかける。そして同じ様に私にも目を向ける。
「痛いことが増えたの……。あんなのやだよ……。」
そう訴えるリンシィ。
「けど頑張ったのね。えらいわ〜!いい子ね!これからも頑張ったらいいことがあるかもしれないわ!」
母は今までで1番嬉しそうに、そう言った。
「ほんと?頑張ったらいっぱい褒めてくれる?」
リンは無邪気に返事をした。
(母に褒められる為だけに、頑張れるわけがない。)
私がそう思っても、リンは違う。当たり前だ、私はあの記憶を見てしまったからそう思えるだけなのだから……。
私はリンに記憶のことを言おうか迷った。
でも、あんな辛いことをどう伝えればいいのか分からない。そうならない様に、私が頑張るって決めたのに。私は既に何も出来ない自分に落胆しそうだった。
「レン、どうしたの?疲れちゃった?」
母にそう声をかけられ、うん、とかろうじて返事をした。
(母はいつから裏切るつもりなのだろう?)
ふとそんな事を考えてしまった。
だって、今目の前にいる母は優しさに溢れているのだ。疑っている自分が間違いなのではないかと、考えてしまう。
今の母は演技なのか、それともこれから心変わりするのだろうか。と。
リンを守ると決意したのに、何を信じていいのかわからなくなる。守るために何をすればいいのだろう……。
その日から、滅多に会うことのなかった母はよく私たちに会いに来てくれる様になった。
だが、リンとは違い私は素直に喜べなかった。
「今2人のレベルは何になったの?」
「どんなことができる様になったの?」
「魔物とは戦えそうかしら?」
と、魔力の事をよく聞く様になったからだ……。
そして最後には必ずこう言うのだ。
「もっともっと頑張るのよ。あなた達は良い事を、国の為になる事をしているのよ。」
私の考えすぎたと思いたい。でも、そうでは無いのだと、危機感を募らせて行った……。