2.
私達は自室へと戻り、2人用に並べられたベットの中で休んでいた。
「今日は痛いのなくてよかったね。」
リンシィはそう言って安心した表情を向けてくる。
「そうだね……。」
私はそう返事をするので精一杯だった。
あの記憶が頭から離れない。夢だと信じたい。根拠はないがあれは現実で、これから起きることなのだという確信がある。
――絶望――あの記憶の事で頭がいっぱいで不安になる。
「どうしたの?もしかして、レイの方は痛い事したの?」
リンシィはレイシアの愛称で呼び、心配してくれる。
「そんな事ないよ。大丈夫。けど、なんか疲れちゃった……。」
そう言って誤魔化し、今日は早く休もうとリンシィにおやすみ、と声をかけた。
ベットの布団を頭から被り、あの記憶について考える。
(これから私に……いや、私たちに起こること。)
――――悪化する人体実験。
「――イタイッ――イャッ……アァァ」
バチバチッーっという音や、得体の知れない気持ち悪い物体の目の前に立たされる光景。
「だズ…ヶ、てェ……」
苦しむリンを必死で抱き締めているような視界。
――――母に裏切られる未来。
「あんた達なんか、産まなければよかったっ‼︎‼︎」
「バケモノ‼︎」
ヒステリックに叫ぶ実の母。
「どうせ殺されるなら、あんた達も一緒よ……」
そう言ってナイフを持って近づいてくる母。
――――今はまだ知らない大切であろう人の死。
「……レイ……リン……ごめんね……。」
口から血を流しながらこちらを見つめる少女。
「――お願、い……。ゴろ、じテ………」
そう目の前で懇願する少女と
「いや、やめて」
と泣きじゃくるリン。
――――無様に泣く事しか出来ない自分。
「……リンッ…。リンッ……。」
ボロボロなリンを抱きしめる自分が窓ガラスに写っている。
「リンにはっ、させないって言ったじゃないっ!!約束が違うじゃない!!」
何度か会ったディルツトップの男に私が怒鳴り、冷たく見下ろされている光景。
――――絶望に追いやられていたリンシィ。
血まみれになったリンの姿。
言葉もなく、絶望した目。光をなくした目をしたリンが目の前にいる光景。
(……どうにかして防がなきゃ。)
人体実験が悪化するのはもうすぐだろう。これを防ぐのは無理だ。ディルツから脱走でも出来たらいいんだろうが、現実的じゃない。
今の私たちには逃げる力も、逃げてから生きていける力も保証もないのだ……。
でも、母に裏切られるのも、絶望して泣いていた時の姿も、目の前のリンは少しずつ成長していた。おそらく何年かは時間がある筈。
唯一頼れるはずの大人は、母は私たちを裏切るのだ。もう誰も信用出来ない。してはいけない。
リンだけは、絶対に守ってみせる。何があっても。
私はそう固く決意した。