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よいのくちより ともがたり  作者: ウタゲ
二章 うたげすすんで ひがくれて
97/145

48 会議した

『さて。それではみなさん聞こえますでしょうか。』

「おう。」

『はい。』

 

 元が佐藤先輩に会いに行く前日の夜。

 俺は自分の部屋の机に座り、目の前のスマホからの声に応えた。

 通話対象は一人で、元の名前のアイコンが表示されているが、聞こえてくる声は二人分、元と詞島さんだ。

 会議ツールを利用した多人数通話で詞島さんと話すのは初めてなのだが、やっぱりこう日頃直接的な接点のない人との会話は緊張してしまう。

 しかし、こう罪悪感のようなものが湧いてしまうのはどうしようもないことだろう。

 協力が必須だと言われたとはいえ、古賀の彼女の浮気をよりにもよって元の彼女に話さなくてはいけないのだから。


『はい、では明日の動きを説明します。

 俺が多分痴漢冤罪受けるんでそれを叩き潰した上で古賀君に対する感情を佐藤先輩に吐き出してもらいます。』

「待て待て待て。」

『え? 元、え? 痴漢? 私以外に?』


 簡単にすぎるその説明に、俺と詞島さんでツッコミを入れる。

 いや、詞島さんのそれは被せボケか? 可愛い。俺も言われたい。


「おいいくら何でもぶん投げすぎだろ。もっと基礎から説明しろ。

 いきなり痴漢冤罪はぶっ飛びすぎだ。」

『ん、あぁごめん。佐藤先輩の彼氏さん経由でよく一緒にいる女の人、この人が痴漢冤罪の常習犯なのね。

 んで、その人の学内SNSで今日こう言ってんの。』

 

 元が画面を操作し、フォルダの中から出した画像が会議の画面に表示される。

 画像はあまり見たことのないインターフェースの画面で、なるほど、元の言う通り大学内でのみ見れるサイトなのだろう。

 この際関係ない人間が入って良いのかとかは気にしないことにする。


『またバイト〜♬

 今度は後輩からのお願いでこーこーせいだって、かわいそうだけど、仕方ないよね♬』

『かわいそーw どんな子? 顔が良かったらアタシ助け舟出しちゃうかもw』

『四十点のモブメンだからないねw』


 何個かのレスが付く会話の中の一部なんだろう。

 そこに貼られている写真が元であることから、いきなりにすぎる元の痴漢冤罪云々が一気に現実味を帯びてきた。

 しかし、それらの会話は中身があまりにも頭が悪い文章に見えて、俺は二度三度と瞬きを繰り返してしまう。

 

「は? え? これ、え?」

『元の良さは顔じゃないのに…』

『うん、ありがとう。ルカのフォローになってないフォローは置いといて、この人の言うバイトってのはまぁ、痴漢冤罪ね。』

「おいおい、それまじで言ってんのか?」

『はいこれ。』

 

 そう言って元が出してきたのは動画。

 |何≪いず≫れも痴漢と呼ばれた男が駅員に連れ去られる動画で、驚くほどに構図が似通っている。

 違いとして写っている女の服や車内の装飾が上げられるが、叫んで手を上げて、列車の外に出すまでの流れはほぼ一緒だった。

 証拠として十分にすぎる動画に、俺と詞島さんは喉からかすかにこぼれる呻き声のような音だけしかマイクには載せることができず、思考だけで一杯一杯になっているところ、元は更に話を続けた。


『一回入っちゃえば誰が見てるかわかんない会員制の交流サイトに迷惑系御用達動画サイト、人気者でいないといけないから色々やってて大変だよね。』

「いや、お前……」


 こんな動画がネットに上がっていて、元が手に取れるような場所に落ちていることに正直ドン引きするも目の前の事実は変わらない。

 呆れながらも画面をみる俺の目にいくつかの動画が連続して流され、それが終了すると自然とため息が漏れた。


『酷い……こんなことをしているのが広まったら、実際に痴漢にあった子達が言い出し辛くなっちゃう。』


 苦しそうな詞島さんの声に、そうか、その目線もあるのかと気付かされた。

 そういう意味で、男と女、どちらの性別にも損しか発生し得ない行動をとっているのか。

 ふと、一瞬だけ合コンで出会った女の人たちの顔が流れ、最後に大木さんの姿が頭をよぎった。

 少しだけ、イラっとした。


『あの人達にとって、これはもうバイト感覚なんだろうね。

 依頼を受けて他人を貶すことにもう呵責なんてないんだと思う。』

「まじかよ。本気で気持ち悪くなってきた。

 何でそこまですんだよ。」

『今まではまぁ、言ってる通り金で、今回は俺が何言っても信用できないようにしたいんでしょ。』

「あ?」

『佐藤先輩、俺に見られたのは偶然だと思ってるんだろうし随分色々と綺麗な顔してみせてるみたいだからなぁ。

 シュウが言ってたでしょ? 先輩、学童保育のボランティア受け持ったり地域の活性委員会にもよく顔出してるんだって。』

「あー、って、え?」

『ねぇ元、それって他の人から浮気してるなんて思われたくないから、言いそうな元を先に信じられない人にしようってこと?』

『まぁ、多分ね。』

『んー……』


 詞島さんが唸り、マイクでも拾えないくらいの音量で何かをぶつぶつ言い出した。


「まぁ、明日ありそうなのはわかったけど、どうやってお前と同じところに乗るんだよ。」

『あぁ、それね。集合場所と時間が分かれば多分問題ないんだと思うよ。』

「は?」

『佐藤先輩との集合場所、最寄駅って言える駅は一つで、バスも無い。

 しかも乗り入れる路線は一つだけだから俺がいつどこ向きの電車乗るかさえ分かれば乗り合うのは難しくない。

 それに、行きが無理なら帰りは駅一つしかないんだから、そこで乗り合えば良いしね。』

 

 言いながら元が自身のスマホ画面を表示させ、SNSアプリでの佐藤先輩とのやり取り部分を画面に写した。

 その会話では元の変な噂で困っている、佐藤先輩何かご存知ないですか。という元の探りから始まって佐藤先輩が相談に乗るよ、直接会って作戦を練ろう、と言う流れが作られていた。

 ところどころ強引な流れに見えるが、これ逆に胡散臭く思われなかったんだろうか。

 そう言うと、あまりにもいろんなところに話が飛んでる以上俺一人を嵌めるのに使われるコストじゃない、と返された。

 まぁ、言われてみればそうだ。たかが高校生一人をはめるために数ヶ月前から痴漢動画を撮り続けるなんて普通にやれることじゃあない。

 結局、元は話の中で自分がどこから電車に乗るか、どうやって待ち合わせ場所に行くかを自然に佐藤先輩に提示していたがこれも相手からしてみれば思い通りに動いたとしか思わないんだろう。

 

「しっかしお前、なんでこんな情報握ってたんだよ。」

『ん、ちょっと前に色々あってね。近場で犯罪に巻き込まれたく無いなあって思って調べてた時期があったんだ。

 今回のこれは噂というか都市伝説というか、そのレベルでしか信じてなかったんだけどまぁ調べたら、ね。』

 

 近場でこんなシステムを用いた金の巻き上げが実際にあったわけだから心配しすぎだ、なんて言えないが。

 いや、それにしてもアンテナの感度が良すぎる気がする。ひょっとして元も何かに巻き込まれたことでもあるんだろうか。

 ゼロ君なんかは週一で何某かのイベントがあるらしいが……

 

『まぁそんなわけでね。絶対面倒なことになることは確定してるから、こっちが佐藤先輩を締めるための材料になってもらおうと思うわけ。』


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