表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よいのくちより ともがたり  作者: ウタゲ
一章 さけのみよにん あつまって
9/145

08 08:30 細石波駅

「ありがとうございました!」

 

 頭を下げ、ポーチに立つ山上君のお母さんにお礼を言う。

 ご飯を食べた後、ぐだぐだと話して気づけば八時を回っていた。

 正直始発に間に合う方向でも考えていた身としては、随分と休ませてもらった感じだ。

 本当に、山上君と迎え入れてくれたご両親には頭が上がらない。

 まぁ、心の中では割とルカに釣り合うかどうかで酷いこと言った気がしたが、それは美人な彼女を手に入れた必要経費として我慢していただきたい。

 

「こちらこそ、ルカちゃんに付き合ってくれてありがとう。

 なんだったらまた一緒に来てね。」

 

 ニコニコと手を振るお母さんにまた軽く頭を下げる。

 手に持つ紙袋がガサリと音をたてた。

 紙袋の中身は昨日食べきれなかったお菓子と、私が使わせてもらったパジャマ。

 一晩ルカに抱きついていたせいで、まだ匂いが染み付いている気がする。

 

「はい、またご縁がありましたら絶対!」

 

 とりあえず社交辞令として答えさせてもらう。

 いや、女友達の彼氏の家とかあんまきてもあれだろう。

 うん、やたらと居心地は良かったしお風呂とか超最高だったけど。

 感謝と挨拶をしていると、車が玄関に寄ってきた。

 家の裏に留めていたらしい自家用車は、山上君のお父さんが運転するものだった。


 駅までだが送ってくれると言うことで私もお言葉に甘えることにしたのだ。

 山上君が開けてくれたドアから、ルカと一緒に後部座席に座る。

 行ってきます、と山上君のお母さんにルカが手を振ると、お母さんの方も笑顔をまた明るくして手を振る。

 徒歩二十分程の距離だけを走るため、少しの間しかいない車内。

 ラジオの響く車内ではそんな時間も大切にするのか、ルカが座席越しに山上君に話しかけている。

 話の内容は今日の予定のようで、昨日の私と話した時に思いついた雑貨が買いたい、と言う話だった。


 私が見たことがある動物の雑貨の話をしっかり覚えていてくれたことに嬉しさを感じながら、その場所を横から細かく話すと、山上君がスマホでピンをうったようでここでいいか、と確認してくる。

 そんなこんなで、気づけば窓の外の景色は後ろに過ぎる速度を落とし、車は駅前に駐車した。

 少し広めのロータリーには人気もなく、まだ開いていない食べ物屋さんのシャッターが半分だけ空いていたりと、朝の活気のない駅前がそこにはあった。

 車から降り、山上君のお父さんにお礼を言うとルカと山上君が先に改札を通り、駅に入る。

 それを追い、私も改札を通る。二列しかない改札はやはり微妙に狭く感じてしまう。


 ホームに上り、改めて周りを見る。

 家があって、畑があって、ビルは少なくて、空が低い。

 街中で感じるよりも、幾分世界を広く感じ、どことなく山上君の纏う空気と似た、朴訥な風を感じた。

 ばさり、と髪が風にかき乱される。

 何本かの髪が口についてしまい、ふわふわに整えたヘアスタイルも乱れてしまった。

 すこしむっとしながら髪を直そうと手櫛を入れたところで、柔らかな何かが触れる。

 

 ふわりと香る爽やかで甘やかな香の匂い。

 そして、私の指先に触れるなめらかで暖かな指。

 つい体を固くしてしまい、その手の持ち主を見る。

 少し上から私を見るルカの目がそこにあった。


 私の視線を受けたルカが目を細め、固まる私の動きをそのままに、髪に差し込んだ指を動かす。

 さわさわと動く指先が髪の毛を通して頭皮に甘美な刺激が到達する。


「はい、かわいい桃ちゃんですよ。」


 日の光の下、風が舞うホームの上でふいに見せられた素晴らしい光景に言葉がない。

 ぼうっとしてしまい、私を覗き込むルカの目が恥ずかしくて目をそらすとにやにやとした山上君が目に入ったので半目になって彼をにらむ。


「何さ。」

「いーや。」


 ふ、と軽く鼻から息を吐いた彼の眼は一瞬でからかうような色を抜いていた。


「ありがとな。」


 何がだよ、と問うつもりだったが、髪を直したのにいまだに私の頭をいじっているルカの指が気持ちよくてタイミングを逃してしまった。

 そこからは、特に大きなイベントのようなものはなかった。

 いや、それも当たり前だ。朝方で人も少ない地方路線の入り口。

 時間通りに到着した電車に乗り来むと、休日だけはやっているという向かい合わせのボックスシートに座り、三人で話した。

 ただそれだけだ。

 山上君とは話せる会話あるかな、と思ったが特に問題はなく、ルカにサブカルを布教したのも山上君と言うことで割と話があった。

 話してみると山上君は割と雑食らしく、動画サイトを巡回しながら本を読んだりもするそうでネットミームも耳に引っ掛けながら学んだりしているらしい。

 その割にはバーチャル、生身両方の配信者に関してはあまり知識がないようでそこら辺は私の方から色々と布教することになった。(なんでも合成音声以外で話されるのが苦手なようだ。)

 お互いの趣味と知識の範囲を探るようなナワバリの話を続け、共通点やお互いに興味のある部分での話をしていると、車内アナウンスにルカが反応した。

 

「あ、次ですね。

 元、準備準備。」

「おう。」

 

 席に置いていた鞄を山上君がルカに渡す。

 受け取ったそれの肩紐を肩にかけると、ルカが立ち上がった。

 

「昨日から、ありがとうございました、桃ちゃん。

 すっごく楽しかったです、また教室でお話ししましょう。」

「ルカの世話、あんがとね。」

 

 そう言ってドアに向かう二人。

 私の前を通るルカの残り香にそのままついていきそうになるが、頑張って抑える。

 私はこれからまだこの電車に乗り続けなければいけないのだから。

 ドアから出た二人は窓越しの私に手を振った。

 やっていることは、いつもの友達と別れる時の挨拶だがその時にはなかなか感じない小さな寂しさを感じた。

 手を振る二人にこちらも手を振る。

 まるで何かの映画の別れの場面みたいだ。

 動く電車に、置いていかれる駅のホーム。

 じっと二人を見つめていて、気づけば駅が見えなくなってもしばらく私は窓から外を眺めていた。

 スマホを取り出し、親に連絡を入れようとする。

 ふと、機内モードのままだったことに気づきモードを解除すると同時に一つのスタンプが私と母の会話に貼り付けられた。

 包丁を持つ目を血走らせたネズミのスタンプ。

 割と頭に来てる時の母のスタンプだ。

 流石に二人だけの会話のところに書くのも少し怖いので、家族用グループに連絡を入れる。

 

 『今第四笠原を通り過ぎたところー

 後四十分くらい? で駅に着くと思う』 

 

 了解、とだけ返されたメッセージを閉じ、昨日遊んだ友達のグループを見ると、そちらも色々とメッセージが届いていた。

 色々あってメッセージを飛ばせなかったが、遊んでくれた感謝の意と、寝過ごしてやばかった話を投げる。

 ルカと話して、彼氏がいたことを知って、抱きしめられながら寝て。

 半日にもならない時間でとてつもなく濃い経験だった気がする。

 ルカに助けられたというだけに話を縮めて一通り話してそちらのルームの会話も一区切り。

 いくらか距離が近くなってきていたとはいえ、ルカは未だに未知の女の子のようで私が絡めたことに随分とみんな驚いていた。

 ふう、と一つ息を吐き、電車の現在の位置をパネルで見る。

 後半分、と言ったところか。

 何とは無しに隣に置いた紙袋を膝に抱えた。

 畳まれたパジャマからは、まだルカの匂いがするような気がして膝の上の袋をだきしめる。

 楽しい一日だった。

 それはまぁ間違いない。

 目的地までの空白時間、いつもならニュースサイトやソシャゲで時間を潰すはずが、なぜかそんな気にならずに紙袋を抱きしめてぼうっとしてしまう。

 楽しかった、その事実を咀嚼しているんだろうと思う。

 脳内を回るのは学校を出てからのみんなとのカラオケ、ルカとの出会いにお泊まり会。

 朝の山上君のエプロン姿に美味しい朝ごはんと、電車内でのライトオタトーク。

 たまたま出会えたことから始まった最高の一日を思い返すとフニャッと口角が上がる。

 紙袋を抱きしめる腕に少し力を入れるとルカの匂いがまた少しだけ漏れてきたような気がして、顔をさらに紙袋に近づけた。

 かすかな香りで思い出すのはいろんな顔。

 そのなかで、ひときわ輝いていたように思える山上君と電車を降りるときに手をつないでいたときの顔。

 ちょっとむっとした。

 

 (はて?)

 

 いきなり感じたむっとした感じに、疑問が浮かぶ。

 なんでまた、いきなり?


「あ、そっか。」

 

 私は、ルカに惹かれていたのか。

 で、惹かれたルカがぱっと見普通の男にしか見えない山上君とラブラブなのが嫌だったんだ。

 私自身の価値も低くなる気がしたし、何より普通な山上君ではルカを諦めきれないから。

 別に同性が好きと言うわけではない。

 それでも、私以上にルカに好きな人がいることが少し嫌だったのか。

 

「私の方が先に好きだったのに・・・?

 いや、絶対私の方が後だったよね。

 うーん、この場合どういえばいいんだこれは。」

 

 独り言が口から漏れる。

 この感情は、恋愛か? 友情か?

 いや、恋愛はないわ。

 そして思いついたのは、とあるヒーロー映画。

 自分は友達だと思ってた相手に、自分よりもっと仲のいい友達がいた時の悲哀を描いた映画。

 裏切られた方の人の立ち位置が私にぴったりだと気づいた。

 

「BTO、僕は友達だと思ってたのに、みたいな?

 あ、これ地雷じゃん。」

 

 ぽつりと漏らす独り言に、ヤバい系のにおいを感じてしまい、自分にこんな一面があったことに驚く。

 あんまり中学時代に腹を割ってあけすけに話し合える友人が居なかったことがここまで尾を引くとは。

 仲がいい、もしくは仲良くなりたい人に対する感情が自分でも思ったより重い。

 これは気をつけねば。

 ふう、と息を吐き、吸う。

 柔らかい匂いに包まれた気がして意識を手放しかけて駅のアナウンスに飛び跳ねて急いで電車を降りる。

 微睡みのつもりだったが、しっかり寝ていたようだ。

 目前にはいつもの町並。

 コンビニはいくつもあるし、高いビルも多い。

 帰ってきた、という思いと日常に戻ってしまったという少しばかりの疲れを感じる。

 

 さて、とりあえず。

 今はまだ休日の午前、家に帰って服を着替えて、本屋でも梯子しよう。

 いつもの通学スタイルに紙袋をプラスした格好で私は家路を歩いた。

 親に話さなくてはならないことは多い、少し疲れることになるかもしれないがそれが少し楽しみでもあった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ