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よいのくちより ともがたり  作者: ウタゲ
二章 うたげすすんで ひがくれて
89/145

40 会っちゃった

 大村さんの感想に、一瞬思考が止まる。

 あれは、そういう映画だったか?という疑問のせいだ。

 あの映画には誰が主人公でヒロインで、という役割の設定が驚くほど適当にしか振られていないため、誰が完全に主人公だ、という設定はないというのが製作者の言葉だったはずだ。

 極限環境で誰が何を選ぶか、どれが正解かは映画内でははっきりとは描写されず、一応設定集として公開はされていたが、その設定ですら一つのIFだと、監督と脚本家の対談で明示されていた。

 

「えっと、俺が好きだったのは中盤で入ってきた帽子の男で」

「え?あんなのダメだよぉ。

 みんなが前に進もうとする時に、一人だけいきなり元気に止めようとするんだもん、しかも死んだ後に道具持ってたのを発見するってことは、一人じめしようとしてたんでしょ?

 もう、筒井君はあんなのになっちゃダメだよ?」

「そっすか、そんなにダメです?あいつ。」

「もうね、全然ダメ、他の男もダメな奴ばっかりだったけど、あいつは特にダメ!」

 

 違いすぎる。

 見ていたもの、感じたこと、そして話してみての俺の感情。

 何故ここまで違うのか、困惑が俺の中を埋め尽くした。

 大木さん、元、この二人と話した時には、ここまで理解できないことはなかった。

 大村さんと同じくキャラクターの行動に対する感想を言い合うにしても、こんな風に疑問符と困惑を脳に分かせることはなかったはずだ。

 ふと、その二人の感想を聞いていたことから気づいた。

 元の話した、目線の演技の話。

 大木さんに教えてもらった場面場面での役者の動く前のキャラクターとしての癖の演技。

 言われて気づき、見返して膝を打ったそれらの小さな演技と役割をまるまる見ることなく、書かれている字幕だけを追い続ければ、確かに今の大村さんの感想になるかもしれない。

 ただ、画面を見ていればどれかには気付くだろうし、違和感も持つはずだ。

 それすらしていないということは、もしかして。

 

「なるほど、勉強になります。

 やっぱいっぱい映画見て博識になると違うんすね。」

「え?やだなぁもう、筒井君ったら。

 まぁ、確かに普通に比べたら見てる方だと思うけどね。」

「そんなに見れるって、すごいっすね。

 俺なんか一本見たらもう疲れちゃうこともあって。」

「そんなでもないよー。

 倍速で見るし、見どころも最近じゃ色々上がってるからキュー入れてささっと見るしね。」

 

 あ、やっぱりか。

 これはもうどうしようもない、基本合わせる方でいこう。

 そう決めて、俺は映画の話を会話用デッキから削除し、受身用にだけ利用することに決めた。

 

「なるほど、効率化って奴っすね。」

「うんうん、世の中色々とあるからね、まぁ、それでも私は吹き替えだけは選ばないけどね。」

「ダメっすか、吹き替え。」

「もうね、演技がダメだし、外国人の喉から日本人の声が出るのはどうかと思うのよ。

 そういえば、筒井君はさっきの映画、吹き替えで見た?」

「あ、はい。」

 

 正確には、吹き替えでも、だ。

 大木さんが面白い誤訳があるよと教えてくれたので、その比較のために一度四人で見たことがあった。

 映画内での造語による慣用句の直訳で、微妙に変な会話なのに繋がってるあたり、日本語って変だね、なんて笑いながら教えてもらった。

 

「うーん、やっぱり海外に普通から触れてないとキツイかな。」

「そう、っすね。どうしても吹き替えの方が俺にはしっくり来て。」

 

 へへ、と笑いながら大村さんを見る。

 その瞬間、意識のスイッチが切り替わった感じがした。

 あ、この人見切りつけたな。

 何故か、俺はそれがわかった。

 目を見ていて、俺に対する熱が一気に引いたことが見てとれた。

 もちろん、俺に人の意思だのを感じる超能力的なセンスなんかあるわけない。

 ただの経験則だ。

 昨日話していた清子さん、そして、何度か一緒に遊んだことがある大木さんと詞島さん。

 彼女たちと話した時、時折ぶつかる視線は声色以上にものを言っていることに気付かされた。

 特に詞島さんは俺と話す時、絶対俺を正面から見て話すし、大木さんもこちらの表情を感じながら話を進めてくる。

 その姿と目があまりに真摯で、ついつい話をしたくなるのだ。

 そんな人たちと話し、昨日は詞島さんの原点とも言える清子さんともお話しした。

 だから、わかる。

 この人は俺の言葉で、先ほどまでの俺との会話で俺を見限ったな、と。

 話は続く、お互い笑うし、言葉が途切れることはない。

 外から見ればにこやかな会話がまだ続いているように見えるだろうが、大村さんは、もう俺に興味を持ってはいないだろう。

 視線はチラチラ先輩に向かいそうになるも、最低限の礼儀で押さえてるってところか。

 まぁ、大村さんが俺が興味を持っていないことに気づいているかはわからないが。

 ふと、ため息をつきたくなっている自分に気づき驚いてしまう。

 高校に入って、人と話すことに疲れることが無かったからだ。

 これはもう、正直店じまいも考えるべきかもしれない。

 だが、先輩も戸塚も、声の熱はしっかりと残っているし、場の雰囲気もいい感じに上がっている。

 俺が水をさすわけにもいかないだろうと、気合を入れて楽しいふりを続ける。

 ニコニコと、相手を褒め、反対側の女性にも声をかけ、戸塚に助け舟を送る。

 楽しむはずの会合で、俺は何楽しませる方に動いているんだか。

 もうなんでもいいから助けてくれ、と顔に出すことなく考えていたが、思わぬところからその助けの手は差し伸べられた。

 

「ッ!」

「あれ?どうしました?」

 

 一番最初に反応したのは、比奈城先輩と話していた北川さん。

 続いて、俺と話しているようで話していなかった大村さんが反応した。

 十人中二人の動きが止まれば、それを不思議に思い、一人づつそれに倣って、気付けば全員が動きを止めた。

 しんとしたカラオケボックス、いつの間にやらメインボリュームも絞られていたようで、通気口を通して別の部屋の声が聞こえてくる。

 男の声、良い声だと思う。

 それが響いて来た。

 真壁先輩が立ち上がり、ドアを開ける。

 それに、ゾロゾロと他の人間がついていき、気付けばボックス内には俺一人になってしまった。

 これは流石に、やばいだろう。

 万が一誰も帰ってこなければ、十人分の代金を払わされてしまう。

 正直いきたくないが、流石にここで万単位の金を払わされることは避けたい。

 嫌々ながら、俺も先輩達の後に続く。

 ふと、振り返れば席に荷物が少ない。

 ちょっと離れる時でも自分のカバンを手放さないのは、さすがは大学生、なんて思い、ボックスを一瞥すると俺も部屋を後にした。

 先輩達が向かっていたのは突き当たりのパーティールーム、そこのドアがなぜか半開きになっていて、通風口だけではなく、ドアからもしっかり声が漏れていた。

 俺の足音に気づき、振り向いたのは戸塚。

 その表情があまりにも嫌そうな顔だったことで、俺は声の既視感? 既聴感? に気付いた。

 ヤツが居る。

 ドア付近には女性陣、それを囲むように先輩方、その後ろに名瀬で、最後尾に戸塚。

 ひとしきり歌い終えた部屋の中の人間。

 どうやらギターも弾いていたようで、ストリングの唸る音が歌が終わった後も響いている。

 

「戸塚、もしかして。」

「あぁ。」

 

 首肯一つ。

 苦み走った表情が、相手が誰なのかを雄弁に物語っていた。

 曰く、女子より美しい。

 曰く、神の作った造形物。

 曰く、授業中テロリスト妄想を実際にやったやつ。

 曰く、文武両道。

 学年主席(同着十二人)、全ての部活から誘われるが面倒と断った超天才。

 一年七組のハーレム王、零皇鸞鶖レゴラス 絶刹那ゼロがそこにいた。

 いや、読めねえよ。

 

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