22 見つけた
「えー、というわけで、このクラスに於いては奇跡的に一人の赤点も出すこと無くテストを終えることが出来ました。皆さんありがとうございます、おかげで先生も夏休みに補習で学校に来ることなく休みが過ごせます。」
「休んだところで予定とかあるんですかー」
「はい小東君、今度君のバイト先で君のシフト中ずっと書類仕事しますからね。独身女の無敵っぷりを舐めるなよ。」
七月。
入学後初めての実力テストも問題なく終了。
入ってすぐの大きなテストだが、上はともかく下は特別偏差値の高い進学校というわけでもない我が校。
落とすためのテストではなく、二学期以降も授業について行けるように、と言う優しめの確認の試験。
学年全体で見ても赤点に当たる人間はごく少数で済んだようで、俺も問題なく全科目のパスをすることに成功していた。
なにやら数人の生徒がやばかったらしいと言う話を聞いたが、俺個人に特に関係はないだろう。
因みに学校の掲示板に張り出されるのではなく、上位五十名が校内サイトに名前が掲示される形になっている。
八教科八〇〇点が十二人ほどいるが、うちの世代は一体何なのだろうか。
因みに俺の知り合いで一番上位にいるのは大木さんで二十九位。
三十四位に元がいた。
あと変なところといえば、三二〇点ぴったりのやつがこれまた十五人ほどいるらしいということだ。
今回の再試者数が明らかに少ないことを考えると、試験前に公示された赤点ライン四十点未満をきっかり超えることに快感を覚えるやつでもいたのだろうか。こんなに大勢。
「いやー、怖い怖い言ってたが、終わってみるとなんてことなかったな。」
「そりゃあ普通にしてれば普通に点が取れるようにしか作れないだろうからね。」
「その結果満点十二人はおかしいわうちの年代。」
いつもの三人、俺と古賀、元で終業式前に教室で駄弁っていた。
古賀は何というか、最近はウザ絡みも控えるようになり、身だしなみや言動も落ち着くようになって部活でもいいポジションを狙えるようなところまで伸び始めている。
「つーか、元やっぱ頭いいな。物理は満点だろ?」
「物理だけはね。
覚えるのが少なかったのと、山が当たっただけだよ。」
「あーやだやだできるやつは。
俺なんか先輩に教えてもらってやっと半分より上だぜ。」
「でも、先輩との個人授業は?」
「最ッッ高。
言わすな。」
「しっかりエンジョイしてんじゃねえか。」
脛で相手の腿をたたく程度の蹴りを入れた。
正直、思いっきり蹴り込んでやりたい気もあるが周りの目もあるので抑えることにする。
「痛って、当ったり前だろ、つーか元も彼女と勉強会とかしてたんだろ?」
「いや、特別にはしてないよ。
大体今まで一緒に宿題とかしてたし、追い込みみたいなことは今回は無し。お互いに不安もあんまりなかったしね。」
「これですよ。
俺はいいけど彼女居ない歴イコール年齢のシュウに悪いとは思わないのか?
なぁ、元ってひどいやつだよなぁ?」
「煽りのパターン少なくなってんぞ、もう少し鋭さを磨け。」
「ばっかおめえ、彼女の前では優しくいたいし鋭い爪のままじゃ傷つけちまうだろう? だから一人じゃなくなった俺に鋭さなんか邪魔なんだよ。」
「だめだこいつ無敵か。」
グダグダと時間を潰し、気が付けば体育館に移動する時間。
一度教員室に戻っていた教師が教室入口から声をかけると、室内の生徒全員が体育館へと移動し始めた。
式典とか儀式とか、そう言ったものをするだけの集会ぐらいなら動画配信、せいぜいストリーミングで済ませてくれないものだろうか。
そう言う風に以前教師に言ったところ、自分の号令で自分より若い生徒が自分の思い通りに動くことに快感を覚える校長がいる限りそんな事態はあり得ないから我慢しろ、とのお言葉をいただいたことを思い出す。
そういえば校長が離婚を叩きつけられてから三ヶ月ぐらいに一回だった集会が月一になったと先輩が言っていたような気がする。
信じたくないが、何というかもし本当なら救いようのない話だ。
「お、先輩。」
「行かないのか?」
「わかって言ってんだろ。
校内で先輩に引っ付いたら邪魔になるから行かねえんだよ。」
「でも、今話してる野球部の先輩とかに取られたりしない?」
「あぁ、あの人最近クリケット部の彼氏とうまくいってないからよく相談に乗ってるんだってさ。」
「マジかよ。」
知らなかった先輩方の知りたくなかった関係性を教えてもらいながら体育館に向かう。
周りのクラスメイトは結構自由で向かう途中でトイレに行ったり、携帯を取りに戻ったり。
割と自由に生徒は動き回るが、結果として開始時間に体育館に集まっていればいいと言うことなのだろう、先生方も特に移動を強要したりはしない。
体育館に入る少し前、大木さんと詞島さんが視界に入る。
夏服に変わって半袖になった大木さんと、同じく夏服ながらその上に薄いストールのようなものを羽織っている詞島さんは遠くから見ると他のクラスの煌びやかな女生徒に埋もれる感じがするのだが、それでも知り合いだからか俺の視線は揺れることなく二人を捉えることができた。
遠くから眺めることは最近それなりに機会があったのだが、夏服の白さと合わさって見える二人はやはり眩しく思える。
七組だとかうちのクラスの美女・美少女の群れよりも身近な分、俺にはずっと心に来るものがあった。
「誰見てんだ?シュウ。」
「あぁ、ルカと大木さんか。」
「ん? 元の彼女か。ほぉ、やっぱりなかなか。
お、隣の小さい子も可愛いじゃん。
シュウ狙ってたりする?」
「狙えるんなら狙うけど、今は何か色々考えることがあるんだよ。」
「は? 彼女作り以上に考えることとかあんの?」
「俺はあるんだよ。」
嘘だ。
本当はそんなことあるはずないし、ぶっちゃけ今でも思考の上位に鎮座している。
けど、どうも古賀相手に恋愛関係でいじられるのはこう、悔しいのだ。