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よいのくちより ともがたり  作者: ウタゲ
二章 うたげすすんで ひがくれて
61/145

12 説明した

「やっぱ元がおかしいんだって。」

「だよね、絶対ルカのサポートしまくってたはずだよ。」


 四プレイと一コンティニュー。

 俺と大木さんが、元たちの記録を抜くために要したプレイ回数である。

 最初の目的だった一ステージ目の突破は実に容易だった。

 お互いの役割さえしっかりと分けられていれば、なんら問題はない。

 しかし、鬼門だったのは三ステージ目。

 微妙に重なってくる敵の群れを間断なく処理し続けることがとてつもなく面倒だった。

 更に、アーマーを持つ敵は連射が必要でそれに対する処理もまた手間だった。

 自分一人では五発必要な敵が、プレイヤーで交互に打てば一発づつで済む、そんな訳のわからないギミックがあることに気づくまでに時間がかかった。

 側から見ているとわからないが、やはり元はおかしいやつだ。

 目標の突破を祝して二人でやったクレーンゲームで何とワンコインで取れた大きい恐竜型ぬいぐるみを膝の上でモフりながら、大木さんはテーブル上のナゲットを頬張った。


「でも何か新鮮〜。

 筒井君って一人で遊んだりするんだね。」

「あん?そりゃどういう訳よ。」

「だって、筒井君かなり友達多いんじゃない? 声かけられる範囲も広そうだし、一人で遊ぶ必要とかなさそうじゃん?」

「お、おう。」

「私なんかは学校の校舎出たら結構付き合いが限定化されててさ、そんな少ない付き合いも最近はみんなも夏にむけて色々あるみたいで予定が埋まってて。」


 ナゲットにバーベキューとマスタードの両方のソースをつけ、フォークを咥える大木さん。

 話していて明るくて距離の近い子だと思っていたが、それでも校外での活動を共にする仲間なんかは少ないのだろうか。

 ふと、自分のクラスの女子たちのことを思い出す。

 飼い主、いや、ハーレムの主たちに迷惑が行かないように、お互いに節度を守ってイチャイチャとし続けている。

 ただ、もうすぐ夏ということで確かにあいつらも雰囲気がピリつき始めていたな、なんて思い出した。

 音楽に祭り、海に山に泊まりにと、長期休暇はイベントには事欠かない。

 楽しむための準備をすでに始めているやつが多いのだろうか。


「だから、私も久しぶりにぶらぶら歩いてみたんだよ。ほんとだからね? ぼっちじゃないよ?」

「あぁ、知ってるよ。」

「ほらこれ、クラスの友達と男装執事喫茶に行った時の写真。

 ここで見つけた推しに貢ぐために今すごいバイト頑張ってる子達もいてね。」

「ごめん、そういう生々しいのあんまし聞きたくねぇ。」


 見せられた写真には、大木さんを囲む形で写真を撮る三人の女の子。

 クラスの子たちなのだろう、少なくとも俺には仲良しにしか見えなかった。


「でも、やっぱり最近はルカと遊んでることが多いかなぁ。

 不思議なんだけどね、学校ではちょいちょい話すだけなんだけど、外に出るとルカと一緒にいてほっとするんだ。」


 なるほど、と頷いて応えてしまう。

 ほんの少ししか付き合っていないが、確かに詞島さんはすごい人だった。

 何というか、引け目を感じないのだ。

 視界の中心には間違いなく元がいるはずなのに、他の人間、俺や大木さんも気にかけてくれていた。


「山上君も荷物持ちしてくれるしね。」


 うむ、確かにそうだろう。

 あの彼女がいるのだ、荷物持ちに引っ張り出されるくらい我慢しろ。


「んで、筒井君はなんで一人?

 この前山上君と映画行ってきたって言ってたけど、今日は一人映画とか?」


 唇についたソースをナプキンで拭いながら、俺にむけて質問を投げかけてくる。

 真っ直ぐの視線と、真っ直ぐの質問。

 知らずのうちに俺は大木さんのペースに飲まれていたのだろうか。

 この雰囲気を悪くないと思いながらも、自分が女の子と一対一で向き合っていることに気づき、背筋が少しだけ伸びた。


「そうなぁ。一人映画も予定に入れて、ぶらぶらって感じかね。

 実際今日もみたいもんがあったら見る気だったけど、特に来るものがなかったからパスって適当に歩いてた、って感じかな。」

「そっか。

 そう言えば、映画って何見たの?

 山上君に聞こうとするとすごく綺麗にはぐらかされちゃってさ。」

「おう、クソ映画だ。」

「マジっすか。」


 誇らしげに、元の反応を大木さんに事細かに語ってやる。

 どことなく泰然とした元が頭を抱えて困惑していたというのが面白いのだろうか、大木さんは口を押さえて堪えながらもかなり笑っていた。


「うーん、見たかった。写真に撮ってルカに送ったら絶対喜んでくれそう。」

「まぁな。で、大木さんは映画とか見んの?」

「私もそれなりに見るよ。まぁ最近はもっぱら話題になったやつ専門だけど。」

「いや、当たり前だろ。きちんと自己防衛しないとクソ映画はいとも容易く侵食してくるぞ。」

「勝手に生活に入り込んでくる映画のジャンルとか嫌すぎるじゃん。」

「クソ映画沼の人間は業が深いからなぁ。一人でも道連れにできる奴が多くなるように手ぐすね引いて目線が向くのを待ってるんだよ。」

「目線で!?」


 クソ映画の恐ろしさを語りながら、大木さんが最近見たという映画についてもお互いに語ってみる。

 俺としてはやはりわかりやすいアクションと主人公周りのすったもんだが好きなのだが、大木さんはそういうものも好きだがそれよりも周りを支える役周りのキャラクターの造形を見るのが好きとのことだった。

 どうもその分、主人公は主人公、とキャラクターの個性というよりは役割で認識していたようで、俺の主人公に感じた共感や細かな演技に関する感想などが新鮮だったらしくて俺の勝手な思い込みを目を輝かせながら話を聞いてくれた。

 やはり最近の情勢として、SNSでの不特定多数の意見に触れる機会はあれどもそれを噛み砕いて何で好きか、までは理解できなかったようでそこまで突飛な感性をしているとは思えない俺の言葉でも、大木さんは大いに喜んでくれた。


「そっかそっかぁ。カッコつけたい、ってのは何となくわかってたけど、ヒロインじゃなくて周りの人に向けたやつって考えもあったんだね。」

「そんな感じ。結局ヒロインは好きなんだけど、だからってそれだけに注力はし切れてないのがあのメールからは感じられたね。」

「何でもっとちゃんと説明しないんだよ、そんなんじゃ送んない方がマシじゃんって思ってたけど、なるほどねぇ。」


 はー、と感嘆の息を吐きながら頷く姿は自分の理解しきれなかったものを理解するきっかけを得たことに対する喜びが溢れていた。

 会話に空白ができたところでふとあたりを見回すと、それなりに人が増えてきていた。

 そろそろ行くか。

 そう思ってトレイを持とうとした手がスカされた。

 気づけば大木さんが俺の空になったコップも纏めてトレイに乗せ、ゴミ箱に捨てているところだった。


「何か結構話しちゃったね。外でよっか。」

「そうな。」


 席に置いていたリュックを背負い直し、両開きのドアを押して外に出る。

 少し雲が増え、肌寒さに近い涼しさがジャケットの隙間からTシャツ越しに体に吹き付けてくる。


「そろそろ帰ろうかな。

 私は駅に行くけど、筒井君はどこか行く予定ある?」

「俺、は。」


 知り合いの家にでも遊びに行くか、それとももう一回ゲーセンにでも行くか。

 どちらにせよ、家に帰るにはちょっと勿体無い気がしていた。

 土曜なのだ、出された課題は日曜に終わらせられる。

 折角の外出、電車代も勿体無い。


「俺は少し何かしてから帰るかな。」

「そっか、それじゃぁここで。」

「ん?」

「え?」


 え? 帰りの足になれとか言われないの?

 なんだこの子、菩薩か?

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