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よいのくちより ともがたり  作者: ウタゲ
一章 さけのみよにん あつまって
13/145

12 11:21 ディスカウントストア


「激辛はいらないような気がするけど、男子で辛いの好きな人っている?」

「あー、あんましいねーかも。学食の痛辛カレーの攻略者にうちのクラスの名前もなかったしな。」

「うん、それじゃあ外して、っと。

 私の趣味でサワークリームオニオンはいれとこう。

 池田君好きなフレーバーとかある?なんだったら一つだけでも入れていいよ。予算内なら。」

「いや、あんましこれが好きってのはないから適当でいいよ。」

「あい了解。」


 池田君が抱える段ボール箱にぽいぽいと大きめの袋に入ったスナックを放り込む。

 見るのは生産国と内容量。

 最近やばいレベルの食品問題があったらしい外国の名前は避けて、かつ内容量の多い物を優先する。

 パッケージに含まれる空気の容量が多いせいで嵩が増すわりには量がそぐわない。

 大体のグラム数でこのぐらい買ってきて、という指令のためスマホに袋ごとの容量を入れるのだが、時折出てくるオンスだのポンドだのがやっかいだ。

 うむ、昔から思ってたがヤードポンド法死すべし。


「塩っぽいのがこんだけで、甘いのはさっき買った。

 私たちの方はこんなもんで大丈夫かな。

 池田君何か気になるものとか無い?」

「ないんじゃねーかな。」

「おし、そんじゃ会計行こっか。」


 池田君に先導し、レジへ向かう。

 支払いは先生が私たち買い物組だけ入れるグループに張ってくれたQRコードで支払う。

 予算範囲内にきちんと収まった私たちの会計は問題なく処理され、最後にレシートと物品を確認した。


「おもったよりあっさり終わっちゃったね。」

「そうだな、俺の方には連絡無いけど大木さんは?」

「無し。

 飲み物と消耗品だもんね、時間かかってるのかな。」


 人の少ないサッカ台で私と池田君は少し休んでいた。

 駅からここまで、そしてグループに別れてからの購入。

 とりあえず本日の最初の目的とされる作業は私個人の分に関しては問題なく終了できたと考えていいだろう。

 鞄からボトルを出し、唇を湿らせる。

 ふと、視界の端にバケツのような物が写る。

 ポップコーン、しかも真ん中で塩とキャラメルに分けられてる奴だ。

 好きな配信者の映画同時視聴が夜にスケジュールされていた事を思い出し、自費で買っとこうか迷いながら睨んでいると、池田君に声をかけられた。


「大木さんってさ。」


 質問をするための枕詞。

 そう思って体の向きをバケツポップコーンのまま、顔だけを向けて池田君を見る。

 私に質問しているのに、目線は私を向いていない。

 こっちは首痛くなりそうになりながら見てやってるのに、なんてやつだ。

 まぁそれはいい。

 たぶん私に対する質問じゃないんだろうなーなんて思いながら続きの言葉を待つ。


「詞島さんの彼氏が誰だか知ってる?」


 あ、やっぱそっちか。

 クラスでの彼氏居る宣言の後、メッセージアプリやDMで私にルカの彼氏について尋ねる人間は其れなりに居た。

 泉なんかは物陰から直接見に行ったりもしたらしい。

 ただ、この確認行動というのは女子サイドからしか行われなかった。

 考えてみれば当たり前だ。

 女子の場合なら単に興味本位の軽い質問で済む、しかし男子の場合、明らかに狙っているのが分かってしまう。

 そのため、男子の恥ずかしそうな顔を見て愉悦に浸ろうと私の方から又聞きの形では誰にも言わないでね、と軽く言っていたのだが、まさか皆が口約束を守ってくれているなんて。

 さてさて、あらためて池田君の方を見る。

 私への質問が恥ずかしいのだろう、目線は下に向き、左右に揺れている。

 普段通りを装っているのだろうが、残念目線の移動が頻繁すぎる。

 予想通りにして望み通りの男子高校生の焦る姿、だがその望む姿を見ても思ったほどの高揚感は得られなかった。

 残念ながら、外れか。


「知ってるよ。

 何回か一緒に遊んだこともあるしね。」

「そうか。

 で、そのさ、そいつってほんとに付き合ってる?」


 来たよその質問。

 泉も思っていた通り、ルカにあまりにも男の影がなさすぎて実はフカシなんじゃないかと思い始めてるねぇ。

 ただ残念、付き合ってるのは事実だし、デートもしっかり行ってるんだ。

 後、体育祭も普通にルカと山上君は一緒にご飯食べてたけどね。

 私もその場にいた山上君のご両親にはちょっとだけ挨拶したし。


「付き合ってるよ。

 てか両親公認だね。」


 私の言葉に顔色を変える。

 その事実が結構楽しいけど、思ったほどではないな、なんて思った。

 私にとってルカは本当に大切な友達で、クラスでも、外に出ても楽しい時間を一緒に過ごしてくれるすごく大好きな子だ。

 漫画の話をしてもゲームの話をしても、ルカは楽しさを隠さない、知らないことを伝えてくれる。

 そんなルカと付き合う山上君に対し、釣り合わないとかもったいないとか思っていた。

 今はもうそんなことを余り思わなくなった。

 ルカがどれだけ幸せそうに山上君と歩いていたか、山上君がどれだけルカに想いを使っているかを知った今となっては最初に知ったときに感じたような嫉妬を混ぜた感情はもてなくなっている。


「そいつ、どういうやつなんだ?」

「どういう、か。

 んー、普通って言葉が一番合うかなぁ。

 別にスポーツしてるとかも、あ、そう言えば帰宅部って言ってた。」


 ふふん、表情がそれを聞きたいんじゃないんだよ、っていってるぞ池田君。

 だが残念、私からはいってやらん。

 きっと男子間では散々やったんじゃないかい?

 そう、「俺と比べてどうなんだ」、 ってやつ。


「同級生なんだよな?」

「そうだねえ。」


 時折頼りがいがあるし、ちゃんと感情を出してくれはするんだがどこか達観してるようなところのある同級生だ。

 人生二週目か?

 いや、ルカが言うにはいろいろあったらしいから経験の濃厚さではわりと近いかも。


「そいつ、そんなに顔がいいのか?」

「いやぜんぜん。」


 質問に即答する。

 不細工かと言われれば間違いなく違うと即答できるし、イケメンかと聞かれても瞬時に否定できる。

 普通、としか言いようがない感じ。

 たぶん化粧とかばちばちにやったら普通にみれると思うけど、それはまぁ、何か違うし。


「金持ちだったりする?」

「上流よりの中流じゃないかな。

 んー、金持ち!って感じじゃないけど、それなりに余裕はありそうな感じ。

 あぁ、そうそう、頭は結構いいよ。」


 次に聞かれそうな物を先に置いておく。

 彼が本当に聞きたがっている物をさっさと聞けるように。

 いや、私結構性格悪いな。

 少し大仰に、体を池田君に向ける。

 体も顔も、すべてが池田君に正対した状態で私は池田君の次を待つ。

 彼の中の自尊心や苛立ち、いろんな物がない交ぜになっているのが複雑そうな顔から見て取れる。

 否定してほしかった?肯定してほしかった?

 残念、私は君じゃなくてルカの味方。

 そして、ルカの幸せはたぶん、君と居る事じゃないと思うよ。

 薄い笑みを顔に張り付けながら待つ私に、池田君がやっとの思いで口を開いた。


「そいつ、大木さんの目から見て詞島さんにふさわしいやつ?」

「うん、世界で一番、ルカに似合ってる。」


 あっさりと返す私の言葉、それを受けて池田君の目に悲しさと怒りが滲んだ。

 池田君は、ポイント的には良い人だ。

 女子の間でも特に変な噂もない。

 ルカがフリーなら、まぁ少し池田君の方に貫目が足りてない気がするが、応援したかもしれない。

 ただ、私はルカの友人だ。

 そして、ルカには笑っていてほしいと心から願っている。

 その願いを達成するために、例え何を後に回しても絶対にはずせないもの、それが山上君だと私は感じている。

 何故好きになったのか、どうして付き合っているのか。

 それを聞くことは未だにできていない。

 聞けば教えてくれるような気もするけど、これが中々できない。

 まぁ、いずれ聞くときにはセンブリ茶とブラックコーヒー、サルミアッキを完備して聞くことになるかもしれないが。

 おっと、そんなことはどうでもいい。

 あちらこちらへと飛びそうになる思考を束ね、整理して改めて目の前の男の子に向き合う。


「その、詞島さんに、大木さんの方から」

「やめといたほうがいいよ。」


 危ねえ。

 何言おうとしてんだこの坊や。

 推薦する?別れるように言う?

 どっちにしろとんでもねえ事言おうとしてんだけど、どうやら無意識に出た言葉のようで私の制止に、とても驚いた顔をして自分の口に手を当てている。

 いたいけな男子高校生にこんなことを思わせるルカ。

 クラス単位で見れば顔面カースト最上位クラスだが、学年全体で言えば上位層止まりにしかならないにもかかわらず、この傾倒具合。

 この数ヶ月、ルカと同じクラスにいて、その内面にも惹かれてしまったが故なのだろうか。


「その、ごめん。」

「いや、そのわたしもごめん。

 いきなり強く言っちゃって。」


 少しほっとする。

 逆上することもなく、自分の言ったことを振り返り、矛を収める。

 なかなかできることじゃない。

 自制をできているのは、結構すごい。

 

「あー、その、えーっと、何つうか。」


 収めた矛はいいとして、それでも心が納得していないようだ。

 目の前に、宝に近づく道があって、けど無理っていう看板が立ってるような状態なのか。

 池田君は悔しそうな目で、名残惜しそうに顔を歪めながら私にいう言葉を選べずにいた。

 その後、池田君から私への問いかけなどはされることはなく、エスカレーターを下って来た別働班との合流を済ませて全員をまとめ、グループチャットにいる先生に全員の写真を撮って連携し、とりあえずの買い出しは終了となった。

 さて、買い出しも終了したことだしどうするか。

 中くらいのダンボールからはみ出す菓子の袋に、ケースごと買われたジュース等。

 それらを先生の名前で学校に無料配送してもらう手続きを済ませればもうすることはない。

 周りを見る。裕子も才加も顔に疲れはないように見える。

 男子はまぁ、この程度では疲れないか。

 それに、あっちから遊ぼうとかは言いづらいよね、うん。


「このままどっか遊びに行かない?」

 

 裕子と才加は少し嬉しそうにしていた。

 男子と仲良く話せたのはちょっとした成功体験みたいなものなのだろう。

 私無しでも話せていたらしいし、今日はもうちょっと遊んでみたい、という考えがあったのではないだろうか。

 女子側に拒絶の空気がないことを感じられたのか、男子側にもホッとした空気が沸いた。

 金田君にあたりで遊べそうな所ないかな、なんて聞くとちょっと早口でゲームセンターやカラオケの話をしてくれた。

 あんまり長い時間遊んで疲れて解散すると折角の良い日の最後にケチがつくかもしれないし、ちょっとだけ遊んで解散がいいか。

 そんなふうに考え、夜には用事があるから少しだけ遊びたい旨を伝えると、裕子たちもちょっとだけ遊びたい、と意見を合わせてくれた。

 じゃぁゲーセンだな、と金田君の提案で近くにあるらしい大きめのショッピングストアで遊ぶことにした。

 歩き出す飲み物買い出し組四人。

 取り残される形になったのは私と池田君。

 地面に視線を向け、心ここに在らずな池田君の肘をつつく。

 反応は劇的で、驚く声と一緒に大袈裟に体を動かした。

 

「うおあぁっ!?」


 跳ね飛び退る姿が面白くて、ついニヤニヤとした顔になってしまう。

 大きめな声に先を歩いていた四人も気付いたのか、こちらを振り返っていた。

 

「え、あれ?

 終わった?」

「うん、買い出しは終わって、遊びに行こうってことになったよ。」


 ほら、行くよ、と。

 身長差が40センチ近くあるため中々ない高さに少々驚きながら、腰を軽く叩いて先を促す。

 失恋にトドメを刺した人間がして良いことなのか少し不安だが、そこはノリで乗り越えてもらおう。

 ほら、若いし。

 何とかなるんじゃね?

 

「あの、俺今日はもう。」

「良いから、行くよ。」

 

 力を入れて押す、しかし動かない。

 次は両手で押してみるが、動かない。

 くそぅ、体育会系め。

 でかい上に筋肉もあるせいで進みやしない。

 

「歩いてよ。」

「え、あぁごめん。

 ここは堪える場面かなって。」

「そういうやりとりは彼女とやりなよ。

 あ、ごっめ〜ん、失恋したばっかだったっけ? 」

「……」

「……あの、ごめん、その顔やめて、マジ謝るから。

 私を殴りたい気持ちだけが伝わってきてマジ怖いから。」

 

 充血した四白眼で私を睨め付ける池田君に頭を下げる。

 人目があって良かった。

 日本の人口密度に女の命を救われながら、とりあえず池田君を前を歩く四人に合流させる。

 怒りの感情はやはり良くも悪くも動的だ。

 そのままノせて、今日の失恋の傷を忘れさせてしまおう。

 後々一人になったら落ち込むかもしれないが、今日の買い出しだけは楽しい気持ちで帰ってもらおうではないか。

 とすると、ルカと山上君がやってたあのゲームは無しか。

 いろんなことを考えながら先をゆくグループに合流。

 男子組はよくわかっていないようだが、声をかけてくれるならそれでよし。

 そうして行事打ち上げの買い出しから発生したグループでの遊びの時間を、私は思う様堪能するのだった。

 

 

 

 

「で、何もなかったわけですよ。」

「はぁ。」

「傷心の男をケアする良い女よ?

 ちょっとはときめいてもよくない?」

「はぁ。」

「大体さ、沈んだ顔しながら、ゆーちゃんのスカートがヒラヒラしたらそっちに目線やってんのよ?

 いかにも某傷ついて候って雰囲気出して他の女の事考えてやがった!

 何だよあのエロ猿!」

「はぁ。」

「その癖こっちが話振ったら自分は冷静ですみたいな受け答えばっかしやがって、こっちはどこに興味があるかのとっかかり探してんのに、冷淡なのが大人だとでも思ってんのか!」

「はぁ。」

「ジュースの奢りもなんか押し付けがましいし、大体ノータイムでコーラって何だよ!

 お茶を買ってこいお茶を!

 タピオカミルクティーは飲み物じゃなくて食べ物なんだよ!」

「あのさぁ。」

「何!?」

「俺対戦中でさ。

 耳障りだから切って良い?」

「怒るよ!」

「もう怒ってんじゃぁん。」

 

 カチカチとボタンを叩く音をスピーカー越しに聞きながら、山上君に叫ぶ。

 裕子や才加と話すようなことではないし、いつもだったら愚痴をルカに言うんだけど、流石に池田君周りの愚痴をルカにいうほど無情にはなれない。

 結局、山上君に電話して着信を取った瞬間から話しまくった。

 悪いとは思うが、私の愚痴を聞けるのは君しかいない。

 というか君のせいでもあるから、聞け。

 

「で、何。

 結局どんな結果が欲しかったわけ?」

「私にキュンとして赤面した後、私の手のひらで転がされて欲しかった。」

「ねーわ。」

「あるべきでしょ!」

「SR狙ってたやつはR来ても舌打ちしかしないぞ。」

「くそっ、なんて時代だ。」

「お、連勝、ってまた負け確回線落ちか。」

「嘘でしょ、マジでやってんの?」

「当たり前でしょ、何やってると思ってたん?」

「私に興味ないムーブして私の気を引いてんのかと。」

「俺って誰の彼氏だっけ?」

「男はハーレムを欲しがるもんでしょ!」

「知らないよ、俺はルカだけが好きなんだから。」

「こいつほんっと。」

 

 さらりと惚気やがって。

 しかし、相手は恋人持ちな上に相手はルカと来ている。

 か、勝てない……

 

「あーもー!

 良いでしょ!

 愚痴ぐらい喜んで聞きなさいよ!」

「聞いてんじゃん。

 喜んでないし、もう通話切りたいけど。」

「良いから!」

 

 頑張ったんだから、愚痴ぐらい吐かせてくれ。

 結局そのまま山上君に愚痴を吐き続け、寝落ちしそうだからとぶった斬られるまで私のエモーショナルディスクロージャーは続いた。

 クソがぁ!

 

 

 

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