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よいのくちより ともがたり  作者: ウタゲ
二章 うたげすすんで ひがくれて
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72 昔を思った

 祝福と嫉妬と、ちょっとばかりの憎しみ。

 火曜日に詞島さんと大木さん、あぁ、桃がクラスに俺たちを迎えにきた時の雰囲気は、まぁ概ねそんなものだった。

 着いてこようとする古賀がクラスのやつに叩きのめされる姿を尻目に四人で弁当を食べた。

 いつもはできないけど、時々はやってみたいと言うことで桃が作った弁当は彩りもよく、ところどころに入っている野菜も美味しく食べられた。

 いずれはルカみたいに冷食もうまく使えるようにならないとね、と言われた時はちょっと驚いた。

 元はそれ知っているのか聞いてみれば、忙しいんだから当たり前だろと来た。

 まだまだお互いの時間が足りてないと、そう思わされる。

 教室に帰ったら、クラスの奴らからの質問責め。

 付き合い始めたと胸を張って宣言すれば、ダメージを隠しきれない表情でみんな祝福してくれた。

 もちろん、古賀も若干苦しそうにしながらも祝福してくれた。

 累計時間ではまだ俺の方が彼女居ない歴短いからな、なんて言われて答えに困ると、笑って肩を叩かれた。

 

 下校の時も時間を合わせて一緒に帰り、ともに時間を過ごした。

 あの縁日の日、桃を前に死ぬほど情けない姿を見せたあの喫茶店にも行った。

 訪れた時に改めて見まわした室内は重厚な感じが割と俺好みで、そんな店内を楽しむ余裕もなかったと言うことを理解わからされた。

 

 学校行事、年中行事。

 クリスマスに夏休みに年末年始。

 テストのたびに集まって、騒いで、苦しんで。

 喧嘩をして、謝って、謝ったことを怒られて。

 高校生活という三年間、俺は桃を好きでいる努力をし、桃もそうあってくれた。

 ちょっとした行為が習慣になり、いつしか隣にいることが当たり前になって。

 ランクは低いが国立大学に合格をした後に桃のご両親に挨拶に行った。

 俺とお義父さんだけを寝室に押し込め、俺の姉と桃、詞島さんでリビングでスイーツパーティーをしていたのはなんとなく未来を予感しているような気がして、男二人で苦笑したものだ。

 

 思い返せば、楽しい記憶たち。

 俺が桃を好きになる模範として前に立ってくれたなんて絶対に言うことはないけど、感謝はし続けている。

 絶対に言わない。

 お前らがいたから、好きになる決心がついた、なんて。

 万が一、お前らが先に死んだら葬式で言ってやろうと思う。

 だから、さっさと来てくれ元。

 茶番だとわかってても、詞島さんの泣き顔は結構胃にくるんだ。

 

「ごめんみんな。ルカがまた迷惑かけちゃったみたいで。」

 

 玉簾を除けて、元が俺たちのいるスペースに顔を出す。

 高校時代から変わらない、のほほんとして没個性な男がそこにいた。


「ばかぁ、もう知らないぃ。」

 

 元に抱きつきながらそう言い出す詞島さん。

 すでに出来上がっているはずなのに元に放ったタックルにはこれっぽっちも揺れがない。

 一方、元の方も小揺るぎもせずに詞島さんを抱き止める。

 うまく打点をずらして詞島さんにすらダメージが残らない受け止め方。

 相変わらず、上手いものだと感心する。

 

「ルカ、ごめんって」

「でも、元がキノコ派になっちゃって。」

「あれはパーティーパックしか無かったからさぁ。」


 喧嘩の原因は、どうでもいいのかもしれない。

 お互いに甘えてるこの二人を傍目から眺めるのは、とにかくホッとするんだ。

 気づけば桃が篠さんの膝の上で頭を撫でられている。

 いい感じにぺぇで顔が固定されていて、正直羨ましい。

 おっぱいのついたイケメン、か。

 

 ふと、抱きしめられている我が彼女の胸に視線が映る。

 少しは丸みがつき、女らしくなって来てはいるが、やはり持てるものと持たざる者の差は大きい、か。

 視線に哀れみが混ざったのか、桃の顔から表情が抜けた。

 やばい、まずい。

 何がまずいって、おキョウさんのホールドを自分から抜け出たのがまずい。

 ほっとけばずっとそのままのはずなのに。

 

「ちょぉっと失礼しますねぇ〜。」


 ごめんなさい、来ないでください、とは言えない。

 隣の座布団を整え、どうぞと促すと膝にそっと手を添えられた。

 艶めかしい手付きに、ちょっとどきっとする。

 マイナスとプラス、両方の意味で。

 何かされる前にとりあえず動く。

 桃の頭に手を置き、撫でる。

 そういえばしばらくしていなかったことに気づき、申し訳なくなる。


「何? 頭撫でただけで私が矛を収めると思ってるの?」

「いやなんのことですか。怒られるようなことしてないっすよ。」

「私がシュウ君の目線を読み間違えるわけないでしょうが!」

 

 このこの、と北斗七星の形で胸を突いてくる。

 最近始めたジム通いのおかげで肉のついてきた胸筋がくすぐったい。


「おキョウさん、なんとか」

「ならないねぇ。

 彼氏なんだから、きちんと受け止めてやんなさい。」

「はぁ……」

「じゃないと、私が貰っちゃうよ?」

 

 くすくすと、色気を感じるような笑みでおキョウさんが俺をいじる。

 この人は、本当に。

 

「わかりました。」

 

 ヒョイ、と桃の傍に手をやり、抱き上げて膝に座らせる。

 俺の胸に、桃の頭が。腹のあたりに背があたり、じんわりとした温かさが物理的に湧いてくる。

 

「絶対、やりません。」

「そ、残念だ。」

 

 ウゴウゴと体を揺する桃の腹のあたりで手を組み、ちょっとだけ密着する力を強くする。

 頭に顎を置き、テーブルの向かいに座って詞島さんの口を拭う元を見る。

 目があって、笑いながら頭を下げられる。

 ふん、と鼻息をひとつ、舌を出した。

 さぁ、今日はどうやっていじってやろうか。

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