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よいのくちより ともがたり  作者: ウタゲ
一章 さけのみよにん あつまって
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09 12:00 食堂・テラス席

「そういえばさー、ルカさんって化粧品すごい薬品っぽいの使ってるってモモが言ってたけど、ほんと?」

 

 昼食時。

 校内のテラス席に陣取った私と友人たちはご飯を食べながら歓談していた。

 その中で私の入学時からの友人、河野こうの 陽奈ひながルカに問いかけた。

 私がルカと名前で呼ぶようになったあの日から、クラスの雰囲気は少し変わっていた。

 ルカを中心にまとまっていたと思っていたグループはつまるところルカの知り合いであると言うことを保証するための寄り合いでしかなかったようで、ルカ本人からすると「よくわからない話を時々振ってくる人たち」と言う評価でしかなかったようだ。

 そんなグループの中心であるルカが私にフレンドリーに話しかけてきた。

 その時のざわめきたるや、だ。

 ただの朝の挨拶のはずなのに、ルカから


「桃ちゃん、おはようございます。」

 

 ときたもんだ。

 ルカを神輿にしていたグループとしては穏やかではいられなかっただろう。

 ただ、ルカのすごいのはここからで、元々ルカの取り巻きをしていた子達と話し始め、気づいたら二日後くらいにはその子たちと私、そして私の友達にルカとで昼食を食べることになっていた。

 何をどうしたのかわからないが、明らかにグループの色で見ると他を怖がっていた拒絶タイプのグループだったにも関わらずにだ。

 私が何度か話しかけた時には最低限の付き合いっぽい対応をされてそれで終わりだったはずなのだが。

 人との付き合いが嫌で傘にしていた人たちにしてみれば裏切られたと思ったりしても良さそうなところだが、どうも何かしら上手くやったらしい。

 気づけば私のソシャゲのアカウントにも一ゲーム平均五人ほどフレが増えてたりと何をされたのか全くもってわからない状態になっていた。

 ルカに聞いてみたら

 

「桃ちゃんとお話しして、あんまりお話してないことに思い至ったので話してみただけですよ。」

 

 と返された。

 話しただけで友達を増やすんならまだしも属性の異なるグループ間で連帯を持たせるのは正直どうかしてると思うんだが何をどうやったんだろうか。

 まぁそんなこんなで私の学内でのコミュニケーション対象が増えた。

 いや、元々コミュニケーションはとっていたのでその深度が深まったと言ったところか。

 その結果、昼の食事を取るにも今までのグループに新しいグループ。

 そして積極的になったルカの光に惹かれるようにクラス内の他の子達も少しだけ仲良く話すようになってきた。

 そんな感じのある意味学生らしいコミュニケーションの場においての質問が冒頭のそれだったわけだ。


「薬品のような、と言うのは確かにそうですね。

 このタイプの保湿ローションとケア用のクリームを使っています。」

 

 ルカが差し出したスマホに映るスキンケア用品の写真、それは私が山上君の家にお泊まりした時にルカが使っていたものだった。

 商品名と言うよりも番号で言ったほうが早そうなそれは、処方箋で買うようなもののため薬剤師の人に見せられるように写真も撮っているとのことだった。

 

「えぇ、思った以上に薬っぽい。

 てゆーかこんなん使ってたん?

 いくらぐらい?」

「皮膚科に一度行って検診してもらってからのものなので、このくらいですね。

 診察代だけは親に出してもらって、薬品代は私のお小遣いから出してます。」

「え、こんなもんなん?

 コンビニコスメと値段変わらんじゃん。」

「いやいや、量が違うっしょ。これ隣にあるのボールペンだとしたら、私らが使ってるのの倍くらいねーか?」

「あ、マジだわ。

 え、私たちもこれを使えばルカみたいな肌に?」

「うーん、先ずお医者様かなと。

 私は肌弱くてお化粧もろくにできない肌だったので何度もお話ししてテストして今のものに落ち着いた形でして。」

「なるほどねー、でも香水とか使ってるっしょ?いつも良い匂いだし。」

「あ、それ分かる。

 他の人と居るとわかんないけど、ルカだけの時とかふわっと香るの。あれどこのやつ?」

「あれは香水じゃなくて、ですね。」

 

 化粧などの肌につけるものに関する情報はやはりみんな大切らしい。

 クラス内で言うなら、やはりルカの肌の綺麗さは群を抜いている。

 そんなルカの利用アイテムの情報は話の核としては十分すぎるもののようだ。

 ちなみに他のクラスにいる超絶美形のお嬢様だとか休業したアイドルだとか、なぜ顔を出さないかわからないぐらいの美人バーチャル配信者なんかは話を聞くだけで夏の祭典の薄い本何袋分か換算してしまうほどに値段が隔絶していた。

 あそこまで行くともう何の参考にもできなくて苦笑いしかできなくなる。

 そんな隔絶した世界のものとは違い、自分たちに手が届くものが見本になりそうな子が使っているなら聞き逃してはなるものか、って感じだろうか。

 ちなみに私は既に情報入手していたため、美容クリームは切り替え済みである。

 まさか化粧品のために皮膚科に通う羽目になるだなんて、中学時代の私なら考え付かなかっただろう。

 さてさて、そんなこんなでルカの交友関係も増えたわけだが、私はというと。

 

「あー、でもやっぱモモのほっぺ変わったのってルカのおかげかー。

 ほんと感謝だね。」


 グニグニと、そばに座る友人Bこと 田宮たみや 久美子くみこのほっぺいじりを甘んじて受けれていた。

 私は割といじられる方だが、両側からいじられるのは勘弁してほしいと今日はルカの隣は譲れない。

 いや、まぁ別に親愛の元にいじられるのはいいが、最近肌の調子が良くなってきたせいで軽い嫉妬を含めた弄りが温度を上げてきているのだ。

 ペシリといじる手をはたくとしばらくはやめてくれるのだが、隙あらば触ってくるのは私以外だったら怒ってるぞ。

 

「あのさ、感謝するぐらいだったら私にしてよ。

 直接手触りの良さを感じさせてるの私だよ?

 と言うか、もっと大事そうに触ろう?」

「大事にはしてるって大丈夫大丈夫。」

「言葉じゃなくて行動で示してほしいんだよ。」

 

 体をルカの方に倒し、気持ち久美子から体を離す。

 肩に頭がくっつく感じになるがルカは苦笑してそのままにしてくれる。

 勝ち取った頬の平和期間を大事にコップから水を飲む。

 昼の短い時間、こうやってダラダラと遊べる時間ができたこと、話す相手が増えたことは中々良いことだと思う。

 他のクラスの子達もテラスに出てきては昼食をとっているようで賑やかさは時をおくごとに増していく。


 そろそろ行こうか、と立ち上がる子に続き、他の子もテーブルに置いていた弁当箱やトレーを片付け始める。

 入学時から考えてみれば随分と一緒に食事することが可能な人数が増えたもんだ。

 クラスに戻るため、集団になりながら廊下を歩く。

 誰かを中心にしたグループがところどころで屯っていて、その横を通るたびに黄色い声が響く。

 うちの学年にはやはりハーレムの中核が多いな、なんて思いながらみんなで笑いながらクラスへ向かう。


 クラスにたどり着き、集団の一番後ろにいた私がドアを閉めると、小さく息を吐いた。

 入学後、少し時間が経ったからか各クラスの空気や個人個人のキャラクターが固定化されているような気がして、どうも他のクラスと一緒の空間にいるのが疲れるような気がするのだ。

 クラスの中を見る。

 男子が何人かに分かれてそれぞれゲームをしていて、女子はテラスにいなかった子達が帰ってきたテラス組と話をしている。

 そういえば山上君も何某かのカードゲームやってるとか言ってたっけ、なんて思いながら自分の席に座る。

 

「桃、おかえり。」

「んー、ただいま、ってーかあーちゃんも一緒にご飯食べようよー。」

「いやー、行きたかったんだけど、ほら今日は部活が。」

「あ、そっか。

 何だっけ、体育祭に向けて練習してるんだっけ?」

「そ。

 私とか経験者はいいんだけどさ、いきなりの発表だから初心者の子は大変そうだよ。」

 

 一学期中に開催される体育祭、それに向けて吹奏楽部は昼休みの時間も練習のために使うことを許されているらしい。

 ただ先輩がよく練習しているようなので、一年は適当でいいよと言われていてもやらなきゃならない空気感があるようでそれなりに出席するようにしているとか何とか。


「大変だねー。

 あ、でも吹奏楽部は参加しなくてもいいんだっけ?」

「クラス全体参加のやつ以外は出なくていいんだって。

 そこだけは良かったなって思うわ。」

「それまじで羨ましい、私も入っときゃ良かったわー。」

「あんたができる楽器なんてカスタネットぐらいでしょ。」

 

 話に入ってきた別の友人、陽奈が絡んでくるがすげなく切り捨てられる。

 クラス内でののんびりしただべりをしていると時間が来たようで教室前ドアのガラスに人影が映る。

 数秒の後、スピーカーからチャイムがなると同時に五限目の教師が教室に入ってきた。

 昼休みの後に数学、なかなかにヘビーだが頑張るしかないか。

 教科書を開き、ペンを握る。

 さぁ、今日もいつも通りの午後授業。

 後三時間も頑張れば放課後だ。

 放課後にはちょっと気になっていた執事喫茶に行ってみようと誘われている。

 楽しさのためにはいくらか頑張れるのだから、頑張ろう。

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