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第七話

 週明けの月曜。

 友達が多くない俺は誰とも挨拶することなく、一人席に着く。

 これがいつもの登校、通例である。

 しかし、今日は違った。


「あれ、睦月君髪切った?」


 席に着くと隣の席の少女に声を掛けられた。

 名前は田中美里(たなかみさと)

 特に仲が良いわけでもなく、普段は会話なんてしないのだが、何故か今日に限って話しかけてきた。


「切ったよ」

「印象全然違うから誰かと思った」

「そんなに違う?」

「うん。めっちゃかっこよくなった」


 妹、姉に続きまたもや好反応。

 俺が思っていたより前の髪型はひどかったらしい。

 ちなみに下の名前で呼んでくるのは、田中が妹の実桜と仲が良いからだ。


「ずっと伸びてたのに、何で急に?」

「……」


 彼女ができたという事実を捏造するためです。

 なんて言えないため、言葉に詰まる。

 と、田中は思いついたかのようにニヤついた。


「もしかして、彼女できた?」

「ぐぇ!?」

「なにその反応」


 世にも奇妙な声が漏れた。

 気を取り直して首を振る。


「彼女なんてできてないよ」

「まぁそうだよねー」


 一瞬で納得されたのがちょっと腑に落ちない。


「あんなに可愛い義妹がいたら、彼女なんていらないよね」


 この田中を含め、同学年のほとんどの生徒は俺と実桜が兄妹なことを知っている。

 それも、血がつながっていない義理の兄妹であることも把握済みだ。


「別に、あいつとは何もないよ」


 そう言うと、田中は不思議そうに首を傾げた。


「あいつとはって、他は何かあるの?」


 つい余計なことを言ってしまった。

 妹でなく、姉の方に恋愛感情を抱いているなんて言えない。


 しかし、田中は続けて意味の分からないことを言った。


「どっちにしろ、実桜と何かあるわけないよね。実桜、彼氏できたらしいし」

「えぇぇぇぇえ!?」

「ちょ、うるさい」

「静かにしてられるかい!」


 なんだその話は。

 あいつ、昨日の時点で彼氏はいないって言っていたのに。


「ちょっとごめん!」

「うわ、どこ行くのよ!」


 そんなの決まっている。

 義理の妹の教室だ。




 ---




「それでさー」


 ガラガラッ!


 和気藹々と駄弁る生徒らを、荒々しいドアを開く音が中断させる。

 音の主は俺だ。


「え、睦月?」

「話がある」


 戸惑う妹の腕を引っ掴むと、俺はそのまま廊下に連れ出す。

 しばらく歩き、人気の少ない通路まで行くと、俺は腕を離した。


「急にどしたの?」


 暢気な顔で聞いてくる実桜。


「お前、彼氏できたのか?」

「はぁ? そんなわけないじゃん」

「隣の席の田中は、お前に彼氏ができたって言ってたぞ」


 言うと、実桜は思い出したかのように手を打つ。


「あー。美容師さんの時と同じだよ。彼氏いるって事にした方が都合良いじゃん?」

「それは姉ちゃんの前だけでよかっただろ!?」

「そんな! 学校と家で話が違ったらバレるかもしれないじゃん!」


 確かにそうかもしれない。

 今はまだ機会がないが、仮に姉が学校に来た際に、実桜に彼氏がいない事実がバレれば厄介だ。


 しかし、なぜこうややこしくなるんだ。

 全部発端は俺なのが困ったものである。


「別に睦月の話はしてないからだいじょーぶ!」

「……そうかな」

「睦月も彼女いるって事にした方がいいよ」

「あ、やば」


 そういえばさっき、田中には彼女なんてできてないと言ってしまった。

 ついいつものノリで返してしまったが、確かに彼女ができたと言った方が良かったかもしれない。


 と、そのまま伝えると、実桜も目を見開く。


「なんかとんでもないことになってるような」

「本当にそうだよ」


 学校に来る前にしっかり打ち合わせをしていれば良かった。

 少なくとも、俺と実桜の食い違いは生まれなかったはずだ。


「え、じゃああたしは架空の彼氏が誕生して、それで睦月は」

「俺は今まで通り非リア充って設定だな。学校では」


 本当に頭がおかしくなりそうだ。

 姉、美容師、そして学校。

 全てで違う設定の関係を演じなければならない。


「とりあえず美里には訂正すれば? 本当は彼女いるって」

「でも、誰と付き合ってるって話になるよな」

「それは……」


 美容師は俺と実桜が兄妹である事を知らなかった。

 姉は家でしか会わないため、不審に思われる事も少ないだろう。

 しかし、学校はどうだ。


 イベントの時にいつも一人。

 彼女と下校するわけでもなく、一人。

 クリスマスもバレンタインもいつも一人。


 そんなの不自然すぎる。


「え、でもどうしよう。あたしは彼氏いるって言っちゃったし……」

「とりあえずこのままでいよう。しばらくしたら適当に別れたとか言っとけ」

「そ、そうだね」


 本気で頭がおかしくなってきた。

 これからの学校生活、どうなるのだろうか。

 今から恐ろしさに足が震える。

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