第四話
昼食を食べた後に一人家を出る。
服装はジーンズに無地のパーカーという、イケメンが着ればお洒落に見えるが、キモオタが着ればダサくなる魔法のようなファッションだ。
服なんてロクに持っていないため仕方がない。
「おぇ……」
吐き気を抑えるべく、手で口を覆う。
妹の手料理がリバースされそうになった。
実桜が作ったのは普通のチャーハンだった。
イチゴが入っているわけでも、明らかにおかしな食材が入っているわけでもなかった。
しかし、これがマズいのだ。
問題その一。
まず味がない。
塩コショウも鶏がら出汁も醬油も、なんの味付けもなかった。
問題その二。
卵が生だった。
完全に他の食料を炒め終わった後に卵を投入したらしい。
余熱で生温いだけの一番気持ち悪い状態になっていた。
問題その三。
玉ねぎ、ねぎ、ベーコン等のすべての具材が焦げていた。
塩味とかはしないのに、苦味だけはしっかりあって最悪だった。
ここまで料理ができないのは最早才能だろう。
俺は実桜の手前、残すのもかわいそうだったから完食したが、姉の琴葉はフライパンに戻して作り直していた。
意外と姉ちゃんはハートが強い。
と、嫌なモノを思い出していたが、俺はこれからどうするんだ。
姉に変な嘘をついたせいで、デートに行かなくてはならなくなった。
今は家から少し離れた、店などが並ぶ通りを一人歩いている。
相手がいないのにデートとはこれいかに。
哲学か何かかな。
とかなんとか考えていると、ポケットが振動した。
スマホを取り出すと、通話がかかってきている。
「もしもし?」
『今どこ!?』
マイク音量がバグっているのか、大音量で耳が破壊された。
通話の相手は実桜である。
「今は本屋前」
『本屋って通りの?』
「そーだよ」
『わかった、今行く』
「え? ちょっと、なんで――」
俺の質問に返答はなかった。代わりに通話終了の電子音だけが聞こえる。
いきなり通話を切られた。
なんなんだアイツは。
しばらく本屋の前で待っていると、走ってくる少女が見えた。
実桜は俺を見つけて、息を切らしながらそばに来る。
「はぁ、はぁ……待った?」
「待ったよ」
「ふぅ……そこは、待ってないよ、でしょ?」
「なんだよそのカップルみたいな会話は」
言うと実桜はジト目を向けてきた。
「カップルでしょ?」
「は?」
「ほら、デートするんじゃないの?」
「……なるほど」
彼女のフリをしにやって来てくれたのか。
よく見るとちゃんと髪も編み込んでいて設定通りだ。
「髪、こんな感じでいい?」
「いいと思う」
「なにそれ。ねぇ、可愛い?」
「可愛いよ」
「そこは照れたりしなよ」
妹に向かって照れる奴がどこにいるんだ。
それに、実桜が可愛いというのはお世辞でもなんでもない。
俺とは似ても似つかず、童顔であどけない笑みが似合う顔だ。
血が繋がっていないため、顔立ちが似ていないのは当然だが。
「でも、なんで俺がデートに出かけたって設定が分かったんだ?」
姉は実桜にはデートの事を内緒にすると言っていた。
まさか、言ったのか?
俺達で情報共有ができているため、仮に姉が実桜に俺の彼女(設定)について喋ってしまっても問題はない。
だけど、ちょっと姉に対する信頼が落ちるのは確かだ。
しかし、俺の心配は杞憂に過ぎなかった。
「あたしがトイレで吐いてる間に睦月は出掛けてたでしょ? だからおねーちゃんに居場所を聞いたの。そしたら友達と遊びに行ったって言われて」
「それでなんでデートに繋がるんだ?」
「だって睦月、休日に遊ぶような友達いないじゃん」
堂々と言い放つ実桜に拳を握り締める。
というか、自分で作ったもん食って吐くなよ。
「だから、もしかするとまた見栄を張って、デートに行くっておねーちゃんに嘘ついたのかと思ったの」
「……流石の推理だな」
「任せな」
なるほど理解した。
全てはお見通しというわけだ。
ちょっと恥ずかしいが、一人歩きは暇だったために、こうして来てくれたのはありがたい。
「で、今からどうする?」
尋ねると、実桜は鬱陶しそうに俺の髪を眺めた。
「髪切ろうよ」
「え」
「どうせ暇でしょ? ほら、行くよ」
「い、嫌だよ。あそこの千円カットはいつもアホみたいな髪型にされるんだ」
抵抗すると妹は首を振る。
「何を勘違いしてるのかは知らないけど、今から行くのはちゃんと美容院ね。あたしの行きつけの場所」
「……マジ?」
「ほら、髪型がマシになれば、彼女ができたって信憑性増すでしょ。色気づいてきたね、とか言われるかもよ」
一理あるかもしれない。
彼女ができたことをきっかけに、急激にイケメン化を遂げた奴は今までに数人見たことがある。
「そうと決まれば行くよー!」
「おい、俺はまだ行くなんて言ってねーぞ!」
俺に拒否権はないらしい。
ズンズンと一人歩いて行く妹に、俺はため息を吐いた。
これで、お小遣いがだいぶ減りそうである。