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第三話

 時は十一月の終わり。

 すっかり寒くなり、制服の学ランの内側に何を着るか悩み始める季節。

 そんな週末日曜の昼過ぎの事。


 相変わらず自室に籠って暖を取っていたのだが、俺の部屋にノックする音が聞こえた。


「はーい」


 ドアを開けると、そこには姉の琴葉が立っていた。


「どうしたの?」

「お昼ご飯どうするかなーと思って」

「テキトーでいいよ」

「えー、困るよ。何食べたい?」


 休日の昼食は基本毎週、姉が作ってくれる。

 たまに妹も作るが、あいつの作る飯は雑でおいしくない。

 文句だけ言うのはクズなため、一応俺も時々作るようにはしている。


 今週は姉が作ってくれるらしい。

 まぁいつも通りだ。


「姉ちゃんの料理はおいしいから、なんでもいいんだよ」

「そんな事言ってさ、考えるの放棄してるだけでしょ? もー」


 そういう側面がないとは言わないが、本心である。

 と、俺の声が聞こえたのか、足音が近づいてきた。


「何、()()()()()()()()()()って。あたしの料理はマズいって言ってるの? おい」


 地獄耳とはこのこと。

 チンピラみたいな絡みをしてくる実桜。


「姉ちゃんには及ばないけど、まぁ食べれるよ」

「フォローになってないオブラートは意味なし!」


 事実なんだから仕方ないだろ。

 ストレートに言わなかっただけ許してくれよ。


「実桜もむつ君も仲良いね。普通このくらいの年頃の兄妹ってこんな感じじゃないと思うんだけど」

「「どこが仲良しだよ」」


 趣味も合うしよく会話もする。

 しかし、その分喧嘩もよくするのだ。

 って待てよ。喧嘩するほど仲が良いなんて言葉があったな。


 仮に俺たちの仲が異常に良く見えるなら、それは間違いなく普通の兄妹じゃないからだ。

 血の繋がりのない、同じ高校に通う同級生が兄妹なんて、そうある話ではない。

 加えて現状の家庭環境だ。


 母親はいない。

 十年前に亡くなってからお義父さんは再婚をしていないからな。

 そしてその父親はと言うと、最近はほぼ出張で家に居ない。

 実質三人で暮らしているような状況なのだ。


「ふん。そこまで言うなら今日はあたしが作ってあげる」

「え!?」

「何その嫌そうな反応。何かご不満でも?」

「……」


 不満でしかない。

 しかし、そんな事言ったらどんな目に遭うかわかったもんじゃない。

 ひょろガリ体型の俺に対し、実桜は色んな意味で肉付きが良い。

 別にデブだとかそういうわけじゃないが、まぁ有り体に言うならば、男ウケする体という奴だ。

 だから、そんな妹に肉弾戦を挑まれると、それこそ色々な意味で困る。


「じゃあよろしく」

「おっけ! 実桜特製ザク切りイチゴのチャーハン一人前注文入りましたー!」

「ちょっと待て、なんだそれはッ!?」


 世にも恐ろしいことを口走りながら、一階のリビングキッチンへと逃げる実桜。

 追おうとするが、姉が意味ありげな表情を俺に送っているのが分かった。


「どうしたの?」


 尋ねると、彼女は別にーと首を振りながら話す。


「せっかく彼女いるのに、休日に引き籠りなんて変なのって思ってね」

「ぎくっ」

「ぎくっ? 口で言うものなのそれ?」


 人間は究極に困ると擬音が口から漏れるらしい。


「なーんか怪しい」

「あー、えっと。その……」


 言い訳を考えた。

 このままの流れだと、彼女がいるという先日の告白が見栄張りだったとバレる。

 それだけは阻止せねば!


 考えた挙句、出てきたのは。


「きょ、今日はそう言えば彼女とデートの予定だったんだ」

「え!? なんでそんなの忘れるの!?」

「……午後からの予定だから言わなかっただけだよ。忘れてたわけじゃない」

「でもさっき、『ぎくっ』って言ってたよね?」

「……」

「言ってる事二転三転してるし」


 言葉の辻褄が合わないというのは、ネット上とはいえ作家活動をする俺にとって致命的な問題だ。

 しかし、姉は納得したように頷くと追及するのをやめた。


「まぁおねーちゃんには言いづらいよね。ごめん、変なこと聞いて。楽しんできてね」

「……はい」


 また嘘を重ねてしまった。

 現実の虚しさと罪悪感で押し潰されそうだ。


「ご飯は食べるの?」

「うん。食べてから出かけるよ」

「わかった。実桜には内緒にしとくね」

「……はい」


 包み込むような笑顔で頷く姉。

 彼女は鼻歌を歌いながら階段を降りていく。


 さて、どうしたものか。

 デートに行かなくてはいけなくなってしまった。

 自業自得だが、困った事になったぞ。


 これからの事を思い、俺はため息を吐く。


「今日は外寒いよなぁ……」


 早くも憂鬱である。

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