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第二十一話

 翌日。

 本来俺が彼女(嘘)とデートに行き、実桜も彼氏(嘘)とデートに行くはずだった予定の日。

 その日に俺は義姉である琴葉と外を歩いていた。


「寒いね〜」

「そうだね」


 お互い冬の装い。

 姉の私服はいつも大学に行く日に見ているため新鮮味はないが、俺は違う。

 ついこの前実桜と一緒に買ってきた、まだ服屋の匂いがする新品を着ている。


「似合ってるね。可愛い」

「実桜のセンスがいいんだよ」

「実桜、大丈夫かな」

「まぁ熱は引いてたし」


 昨日の今日で実桜は平熱まで下がった。

 しかし、大事をとって今日は休ませた。


「彼女との約束はいいの?」

「うん……体調崩してるらしくて」


「風邪でも流行ってるのかな」なんて呟く姉に罪悪感を抱く。

 流行るも何も、体調を崩しているのは実桜だけだからな。

 ただそんな事実を馬鹿正直に言う事も出来ない。


「実桜の彼氏も残念だろうね。せっかくのクリスマスに彼女にドタキャンされるなんて」

「まぁ仕方ないよ」


 奴にも彼氏なんていない。

 俺達にいるのは義兄妹という名の演者だけだ。

 と、俺が黙っていると姉が顔を覗き込んでくる。


「実桜が心配?」

「え、なんで?」

「考え事してそうだからてっきり」


 考え事、か。

 ここ最近隠し事ばかりな気がする。

 しかし、一度ついた嘘は突き通すのが姉への最低限の配慮であり、俺の責任でもある。

 それと副産物として俺の姉への好意を露呈する訳にもいかない。


「まぁあいつがイベント日に熱出すのは今に始まった事じゃないし」

「それもそうだね」


 適当なことを言いつつ、姉の顔を見た。

 笑顔で隣を歩く顔はやはり可愛い。

 しかし、何故だろう。

 大好きな姉と二人きりで外出しているというのに、あまり楽しめてない気がする。

 頭の中で実桜の顔が過って仕方がないのだ。



 ‐‐‐



 誰もいない寝室にて、実桜は布団をかぶっていた。

 昼間だというのにカーテンも明けず、そして電気もつけていないため真っ暗な部屋の中。


「ふふ……」


 実桜は布団の中で笑い声を漏らす。

 彼女の手に握られているのはスマートフォン。

 そのスマホの画面に映し出されているのは某小説投稿サイトの小説閲覧ページ。

 彼女が現在読んでいるのは、義兄である睦月が投稿したラブコメである。


「相変わらず妄想が激しいなぁ睦月は」


 昔からずっと読んでいるが、変わらない。

 どんなに語彙や文章力が向上しても、彼の恋愛観というものは変わらず歪んでいる。


「なんでおねーちゃんが好きなのかな」


 実桜はぼそりと呟く。

 布団の中、誰もいない家の中、完全な孤立空間だからこそ漏らせる言葉。


「義姉は好きになっても、義妹は好きにならないなんて変だよ」


 実桜はスマホを握り締めて目をつむった。

 そして溜息を吐く。


 彼が義姉――琴葉に好意を持っていると実桜に告白したのは中学生のころ。

 あの時、実桜は複雑な気持ちになった。

 なぜなら。


「あたしの気持ち、気付いてないんだろうな」


 実桜は彼が姉に好意を向ける前から、彼の事を意識していた。

 異性として。


「兄妹で恋愛とか気持ち悪いよねって思ってたけど、睦月は卑怯だよ」


 自分は我慢したのに、兄は自分に全てを打ち明け、そして自分を縛った。


「あたしが先に言ってたら、どうなっていたのかな」


 もしかすると……いや、ないか。

 どうせもっと混沌とした状況に陥っただけだろう。

 実桜が我慢する事で、今睦月は姉とデートをし、そして姉は何も知らずに過ごせている。

 自分さえ黙っていれば、みんな平和なのだ。


「これで、いいんだよね」


 未だに覚えている、昨日睦月に抱きしめられた感触。

 思い出すだけで笑みがこぼれる。

 いいんだ。

 本来結ばれる事なんてない関係だけど、彼氏彼女のフリをできている今はきっと幸せなのだから。



「「ただいまー」」


 何故か早めに帰ってきた二人の声に飛び上がる。

 今までの会話を聞かれていた可能性を考えてしまい、若干体が強張る。

 しかし、冷静に考えて小声だった上に締め切られた二階の部屋、さらに布団の中に籠って出した独り言が聞かれているわけがない。


「いつも通りしよう」


 実桜はそう呟くと、部屋を出て玄関に飛び出す。

 そしていつも通りのとびきりの笑顔で二人を出迎えた。


「おかえり!」


 これでいいのだと自分に言い聞かせながら。

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