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第二話

 遡ること十年。

 当時俺が6歳だった時、母は再婚をした。

 新たな父親として俺の前に現れたのは、優しそうなサラリーマンの男性。

 そしてその両脇には少女がいた。


 四つ年上の姉、鈴原琴葉(すずはらことは)

 そして俺と同い年の妹、鈴原実桜(みお)


 二人の少女と、その日俺は家族になった。


 しかし再婚して程ない頃、母は交通事故で亡くなる。

 共に暮らす唯一の肉親がこの世から去った。


 泣き崩れて希望を失った俺に、義父も義姉妹も優しくしてくれた。

 本当の家族のように接してくれた。

 だから自然と前を向いて生きる事ができるようになった。


 だがしかし、俺は禁忌に触れてしまったのである。


 そう、義理ではあるが、共に暮らす姉の事が好きになってしまったのだ。

 毎日帰りの遅い父の代わりに、母親みたいに家事をこなしたり、時には甘やかしてくれる姉の事を異性として見るようになってしまった。

 我ながら気持ち悪いが、恋心というものは制御のしようがない。



「で、おねーちゃんの事が好きなのに、なんであんな嘘ついたの」


 義妹、実桜は俺の気持ちを知っている。

 俺は溜息を吐いた。


「わからない。姉ちゃんの事好きだとも言えなかったから困って、つい言ってしまった」

「それであんな見栄張ったの? 面白いね」


 実桜はそう言って、開いたままのPCを覗く。


「なになに、『美人の義姉が俺の事を好きすぎるんだが』って、何このタイトル。新作ラブコメ? まんま睦月の願望じゃん」

「うっせーな。勝手に見るなよ!」


 画面を閉じると、実桜は悲しそうに声を漏らした。

 続けて不思議そうに聞いてくる。


「ほんと、ラブコメなんて恋愛経験ないとまともに書けないだろうに、なんで書きたがるの?」

「……」

「ほら、おねーちゃんも言ってたじゃん」

「どこまで聞いたんだ?」

「全部。さっきトイレにいたから」


 この家のトイレは俺の部屋の隣にある。


「盗み聞きしやがって」

「ひどい! あたしだって聞きたくて聞いたわけじゃないもん」


 実桜は頬を膨らませた。


「恋愛経験ないくせに、ラブコメばっか書いて変なの」

「……恋愛経験がないわけじゃないだろ。彼女がいないだけで」

「あ、そっか。ずっと片想いしてるんだもんね、おねーちゃんに」


 いつから姉に対して恋愛感情を抱き始めたかは覚えてないが、長く片想いしていることに違いはない。

 幸い、今のところ姉に彼氏がいた事実は確認できていないが、いつ現れるかわからない存在だ。

 姉は贔屓目なしに美人で優しい。

 スタイルだってモデル並みだし、非の打ち所がない。

 よからぬ虫を寄せ付けるには十分である。


「で、どうするの。彼女いるって言っちゃったんでしょ?」

「そうだな……」


 自業自得だが、困った事になった。

 他の言い訳をすればよかった。


「実際に彼女作っちゃえば?」

「……好きじゃない子と付き合うのか?」

「付き合えば案外好きになれるかも。ほら、叶わない恋を追いかけてても仕方ないでしょ」


 叶わない恋か。

 血の繋がりはないが、姉弟だしな。

 将来結ばれる未来は確実にない。

 どう転んでもバッドエンドだ。


「でも、俺みたいなのに彼女なんてできないよ」

「卑屈だね。その眼鏡取って髪切ったら?」

「コンタクト怖いし、髪切ったらこれからの季節寒いだろ」

「そんなだから彼女できないんだよ」

「そうかもな」


 別に彼女なんて出来なくてもいい。

 結ばれないと分かっていても、義姉以外の女子と付き合うなんて考えられないのだ。

 と、実桜が手を打つ。


「あー、じゃあこうする?」


 彼女はあっけらかんと言った。


「あたしが彼女のフリしてあげよっか?」

「……」


 30秒くらいの無言の時が流れた。

 堪らず彼女が口を開く。


「なんか言ってよ」

「なんて言えばいいんだ」

「お願いしますとか、ありがとうとか」

「なんで承諾する前提なんだよ」


 義妹と付き合うなんて、たとえフリだとしても得ないだろ。

 そう口にすると実桜は笑った。


「義姉に恋するなんてもっとあり得ないでしょ」

「……そうだな」


 図星である。

 元はと言えば俺がおかしいのだ。


「で、どーするの? ほら、あたしは短めの髪って特徴に当てはまるよ? デートの時は編み込みしてあげるし」

「本当に全部聞いてたんだな」

「もちろん」


 正直気持ち悪い。

 姉に対して恋愛感情を抱く俺が言うのもなんだが、妹の方は全く異性として見れないのだ。

 こちらの関係は本当に兄妹以外の何者でもない。


 ただ、他に良い案も思いつかない。

 こいつとは同じ高校に通ってるし、証拠を工作するにはもってこいの人材だ。


「……じゃあ頼むわ」

「了解! これからよろしくね、睦月」

「……ありがとう。助かる」


 後ろから抱きついてくる実桜にゾワっとした。

 やはり妹はただの妹である。


 こうして、義理の姉妹と俺の奇妙な関係が始まった。

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