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第十六話

 姉と妹と共に、三人で食卓を囲う。

 今日はダイニングテーブルの上で姉がお好み焼きを作ってくれている。

 比較的豪華な夕食だ。

 まぁ豪華というか、実桜の好物なのだが。


 父親は例に漏れず県外出張中だ。

 しばらく共に夕食を取っていないな。

 正直気まずいため、父親がいないこの状況に不満はない。


 父親と言えど養父であり、血は繋がっていない。

 尚且つ家を留守にすることが多く、あまり接点を持ってこなかった。

 ずっと身近だった姉と妹に比べると、仲はそれほど深くない。


「二人とも、今年のクリスマスはどうするの?」


 姉はお好み焼きが焼けるのを待ちながら、そんな事を聞いてくる。


「友達と遊ぶ予定」

「ふぅん、実桜は?」

「あたしも友達と遊ぶ予定」


 姉はわかっているぞと言わんばかりに大きく頷いて見せた。

 きっと、俺達が恋人と過ごすと思っている事だろう。


 ちなみに俺も実桜も恋人遊ぶ予定だと言わなかったのは、一応姉の前では互いに恋人がいることは隠している設定だからだ。

 自分で考えていてもこんがらがってくる。

 カオスな状況だ。


「でも、遊ぶ予定はクリスマスだけだよ。クリスマスイブは家に居ようと思う」

「あたしも」

「そう?」


 例年この家はイブの日はみんなでケーキを食べる。

 父親がくれたプレゼントを開けたり、まぁ何かと家族で団欒を楽しむ日だ。


 だから今年も当日は家に居ようと実桜と話し合っていた。

 と言っても、クリスマス当日も本当は恋人との用事なんてないのだが。


「私の事なら気にしなくて、遊んできても良いのに」

「違うよ」


 クリスマスと言えば恋人や好きな人と過ごす日。

 俺にとって一番一緒に居たいのは姉だ。


「姉ちゃんは予定とかないの?」

「ないよ、悲しいことにね。バイト先からは変に気を遣われて『琴葉ちゃん、彼氏と過ごすだろうからクリスマスは出てこなくていいよ』なんて言われるし。彼氏なんていないのに」

「で、休みはもらったの?」

「勿論。彼氏いないのでバイト出れます、なんて言いたくないし」


 姉も色々あるらしい。

 まぁでも、姉に彼氏がいないというのは不思議だもんな。

 彼氏がいると勘違いしてもおかしくない。


 と、姉はこんがり焼け色のついたお好み焼きをひっくり返しながら口を開く。


「だから服買いに行ってたんだ」

「まぁね」

「友達と遊ぶのに、今の服装じゃマズいだろうからね」

「……」


 友達、という言葉には明らかに違うニュアンスが含まれていた。

 ただ、実桜の前で俺に彼女がいるという事については明言しないらしい。

 流石は姉。

 言われたところで、実桜も一枚かんでいるため問題はないが。


「実桜は友達と遊ぶのに服買わなくて良かったの?」


 これまた含みのある物言い。

 実桜も彼氏ができたと姉に言ったらしいからな。

 これももちろん嘘だし、尚且つ俺も把握済み情報だ。


「あたしは睦月と違って私服もちゃんとあるもん」

「確かに」

「別に俺だって服がないわけじゃないぞ」


 着ることができる服がある。

 その事実があれば十分だろう。

 しかし、実桜は溜息を吐く。


「睦月、それは服とは言わない」


 現在俺は、新しい服を夕食で汚すのも嫌だったため、先ほどの格好に着替えなおしていた。


「その格好で大学来てる子見たら、引いちゃうよね」

「姉ちゃん……」


 散々な言われようだ。

 姉は俺と実桜の皿に焼けたお好み焼きを乗せながら言う。


「まぁ、とりあえずむつ君も実桜もイブの日は外出ね。寂しいなぁ」

「「……」」


 年下弟妹の成長に、感慨に耽る姉ちゃん。

 ちょっと申し訳なくなる。

 寂しい思いをさせてしまうと考えたら、胸も少し苦しい。


 と、俺と実桜が黙り込んでしまった。

 姉がそれを見て噴き出す。


「もう。そんな反応しないで! 変なこと言ってごめんね? おねーちゃんは何とも思ってないから楽しんできてね」

「「うん」」


 この関係、この状況はいつまで続くのだろうか。

 ちょくちょく罪悪感に苛まれる。

 自業自得だから仕方ないけどな。

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