第十五話
約二万円分、服を買い込んだ。
両手に買い物袋を抱える。
恐ろしいのはこれだけ買い込んでも、一週間も持たないという事だ。
ファッションというのは案外金がかかるらしい。
しかもファストファッションでこれなのだから、ちゃんとしたブランド店なんかで買い物をしたら、一体どれだけ金が飛ぶのだろうか。
想像しただけで身震いしそうだ。
「てか、こんなに買ってどうするんだ」
帰り道。
俺は尋ねた。
「最悪大学でも着れるじゃん」
「まだ高校一年なのに、大学の話か。……って、俺の身長だってまだ伸びるかもしれないだろ」
「大丈夫。もう伸びないよ」
「……」
俺の身長はギリギリ170センチに届かない程度。
これで成長止まりなんて信じられない。
心が折れてしまう。
「まぁお前は伸びないかもな」
「はぁ? あたしはまだ伸びるもん」
他人の事は散々言うくせに、自分は夢見がちだな。
「お前は食っても胸と尻にしか栄養行ってなさそうじゃん」
「ちょっと! セクハラですよ」
「事実じゃねーか」
実桜は中二くらいから身長の伸びは確認できていない。
代わりに肉付きが良くなっている。
「あたしもおねーちゃんみたいになりたかった」
姉はスレンダーだ。
モデル体型というのだろうか。
貧乳というわけでもないが、実桜よりは身長が高く、全体的にスラッとしている。
「大丈夫だ。実桜も可愛いから」
「ふぅん」
実桜の体型は、その童顔とよくマッチしている。
全体的に丸っこく、特に服を着込む冬場じゃ本人的に気になるかもしれないが、俺に言わせてみればめちゃくちゃ可愛い部類だ。
これは、兄妹とかそういう贔屓目無しでな。
ただ、年頃だし自分の体型はコンプレックスになりがちだ。
気にするなという方が無理である。
「睦月がおねーちゃんのこと好きなのは、細いから?」
「はぁ?」
いきなり何言ってんだこいつ。
「だって、おかしいじゃん。姉の事そういう目で見るんなら、妹の事をそういう目で見るのも普通じゃないの?」
「……」
確かに、何故姉は異性として見ていて、実桜の事は妹としか見れないのだろう。
謎である。
「身体つきは関係ないだろ。どっちかと言うとお前の方が女子っぽいし」
「そう?」
わからないが、なんだか話していて気持ち悪くなってきた。
身内とのこの手の話題は極力避けたい。
「睦月はあたしみたいな方が好きなの?」
「……知らんわ」
ふと隣の実桜を見ると、ちょうど胸に視線が行ってしまった。
なんだか気恥ずかしくなって、適当に誤魔化した。
気持ち悪い。
「ただいまー」
玄関のカギは空いていた。
中に入ると案の定姉が出迎えに来てくれる。
「おかえりー……って、実桜とむつ君一緒?」
「ちょっと買い物に行ってたんだ」
「あ……服か」
「うん」
靴を脱いでリビングに入る。
中は暖房がつけられていて心地よい温度だった。
外で冷えた体を温める。
「いい服あった?」
「まぁね」
答えると、実桜が袋から買ってきた服をぶちまけた。
そして、俺に中身を渡す。
「ほら、着てみなよ」
「え、今?」
面倒だと思った。
しかし、姉は興味の籠った目を向けてくる。
「えー、私も見たーい」
「そ、そっか」
そう言えば、姉に買った服を見せるとは、最初から言っていたな。
まぁ本人も見たがっているし、別にいいか。
俺は服を持って部屋を出ようとする。
「どこ行くの?」
「着替えに行くんだよ」
「ここで着替えればいいじゃん。外寒いよ」
「恥ずかしいだろ」
高校生だぞ。
女子高生の妹と女子大生の姉の前でパンツ姿は流石に抵抗がある。
ということで、自室で着替えてからリビングに戻った。
「おぉー」
姉は一番に感嘆の声を漏らした。
「ね、いいでしょ?」
「実桜が選んだの? 確かにむつ君のセンスじゃこの服は選ばないよね」
「……」
好感触だが、さり気ない一言に傷ついた。
俺のファッションセンスはとことん終わっているらしい。
よし、近々勉強するぞ。
心の中でそんな事を考えている俺に、姉は笑う。
「やっぱむつ君は服装一つで変わるねー」
「そう?」
「うん。元は良いから」
実桜に続いて姉も同じことを言う。
やはり血を分けた姉妹だな。
俺には理解できない感性を持っているらしい。
……とは言え、やはり姉に褒められると嬉しいもので。
「あー。睦月ニヤニヤしてる! おねーちゃんに褒められて嬉しがってるー」
「ち、ちがっ!」
「違うの?」
「……」
うざい。
違わなくないに決まってるだろ。
だけど、姉ちゃんの前でそんな事言うなよ。
恥ずかしくて死にそうだ。
「ほんと、実桜とむつ君は仲良し」
事情を知らない姉はそんな事を呑気に呟いた。