第十三話
期末テストも終わり、二学期もいよいよ終盤だ。
ということは、色々と浮かれる季節である。
学期末クラスマッチ、冬休みが近づく高揚感、そして。
「クリスマスも近いね!」
「あぁ」
俺は十二月の街に繰り出していた。
妹の実桜と共に。
彼女は隣でマフラーと手袋などの防寒具によってもこもこしている。
ちょっと可愛い。
「見つめちゃってどしたの?」
「もこもこしてて可愛いなって思って」
「あれ? おねーちゃんからあたしに乗り換え?」
「馬鹿なこと言うな」
お前への可愛いは、異性に対する感情じゃない。
どちらかというと犬や猫みたいな、ペットに対する感情に近いモノだ。
「で、どこから回るんだ?」
「そーだなー」
今、俺達は買い物に来ている。
目当てのモノはクリスマスプレゼントなどという大層なモノではない。
俺の私服だ。
「今日は睦月をお洒落さんにしなきゃね」
「おう。頼んます」
事の発端は数十分前。
実桜が放った言葉だった。
◇
「ねぇ睦月、服買わなきゃ」
「なんで?」
学校帰りの放課後。
姉は大学から帰って来ておらず、二人きりの時間だ。
実桜は何故か俺の部屋のベッドで寝転んでいる。
「なんでって、冬用の私服持ってないでしょ」
「そりゃまぁ……でもどうせ家出ないし」
「クリスマスも?」
「当たり前だろ」
クリスマスに用事があるのなんてリア充か友達百人いる奴だけだ。
しかし、妹は溜息を吐く。
「今年はそうもいかないでしょ」
「……あ」
「あたし達、恋人がいるって設定なんだから」
テスト云々で忘れかけていたが、そう言えば複雑なことになっていたんだった。
「確かに彼女持ちがクリぼっち決めるのはマズいな」
「でしょ? で、その時服ないと困るじゃん」
「確かに」
実桜の言う通りである。
「じゃあ服買いに行かなきゃな」
「ふふん。あたしが選んであげる!」
「結構だ」
何が悲しくて妹同伴で服を買いに行かなきゃならんのだ。
どうせ近場にしか行く気ないのに、晒し刑か何かだろうか。
同級生にでも出くわしたらどうするんだ。
しばらく笑いものにされるぞ。
「イマドキ女子高生の意見いらないの?」
「……」
そう言われると、ちょっと欲しくなる。
みんなお気づきだと思うが、晩年彼女に恵まれない俺は当然お洒落にも疎い。
対して実桜は可愛いし、服もそこそこお洒落に着こなしているように思われる。
これは乗っておいた方がいいかもしれない。
だがしかし。
「やっぱ恥ずかしいし……」
「ダサい服買って恥ずかしい思いするよりいいでしょ」
「ぬぅん」
納得させられてしまった。
言葉を失う俺に、妹は声をあげる。
「思い立ったが吉日! いまから行こっか!」
「えぇぇ!?」
◇
てなわけで今に至る。
「寒くなってきたねー」
「ほんとな」
少し前まで冷房をつけていた気がするのだが、不思議なモノだ。
夏は極端に暑くなり、冬もめちゃくちゃ冷え込む。
今後の地球の異常気象も要注意だ。
「睦月見てたらもっと寒くなるよ」
「なんで?」
「服がヤバい」
「何がいけないんだ?」
「うーん、全部」
俺の今の全身装備を実桜は一言で一蹴した。
「全部って……」
「だって、厚めのインナーシャツの上にジャージ、アウターは春物。下は丈の合ってないジーンズ。寒々過ぎて見てらんない」
そこまで酷いのだろうか。
見た目に執着していなかったことに加え、そもそも外出をしなかったせいで全く気にも留めていなかった。
「今日は頑張りがいがあるね」
「そりゃよかった」
何はともあれ、やる気が出てくれたのなら嬉しい。
今日は妹のご好意に甘えようと思う。
どうせ、知り合いになんて合わないだろうしな。
「お洒落さんになっておねーちゃんを驚かせよーね!」
「姉ちゃんに見せるのか?」
「だって、睦月が一番カッコいい姿を見せなきゃいけないのはおねーちゃんに、でしょ?」
「……」
恥ずかしい事を言いやがる。
俺は実桜の尻を叩いて静かに抗議した。
相変わらずいい尻で、かつ服装のためもふもふしている。
いい感触だ。
そんなこんなで、珍しく兄妹として街を散策する。