第3話
「何言ってるんですか?頭おかしいんですか?」
「いやいや、酷いねー樹くんも。」
「はぁ…。」
本当にこの人は何を言っているんだ。
けれどこの人が嘘をついている様に見えない。
それまでも彼女の目は澄んでいて、そして、大人に見えないほど純粋だ。
「で、どういうことですか?」
「えーっとね、高校生と社会人1,2年目の人が対象なんだけど、高校生は早く大人になりたい人、社会人の人は子供の頃に戻りたい人同士で身体を交換しちゃおうって言う実験なの。」
「そして、樹くんはその被験者に選ばれたってことー。」
「なるほど、つまり俺はよく分からない実験のモルモットに選ばれたって訳か。」
「悪く言ったらそうかな。」
「そんなの嫌に決まってるだろ。それじゃあ。」
俺はソファから立ち上がろうとした。
「ちょっと待ってよー。悪い話だけじゃないからさ。」
「しかもまだ頼んだもの来てないよー。」
確かに飯を食ってからでも遅くはない。
そう思ってるとすぐにウェイトレスが料理を運んできたのでとりあえず座った。
「チーズハンバーグと山盛りポテトでーす。」
ウェイトレスは意気揚揚に持って来た。
「うわぁー、樹くん容赦ないねー。」
「まぁ、経費から落ちるからいいけど。」
そう言いながら、黛はポテトの山から1本引き抜き、かじった。
「勝手に食べるんだな」と思いながらも、俺はナイフとフォークの入った容器の布をめくり、その2本を取り出し、ハンバーグにナイフを入れた。
「それで、悪いことだけじゃないって言ってましたけどそれは何なんですか?」
「ふっふっ…驚くなかれ…なんと…被験者には…」
「報酬として1000万円が渡されまーす。」
フォークからハンバーグが抜け落ちた。
「は?」
「マジですか?」
「うんうん、マジマジ。」
「けど樹くんが1000万円貰ってもやりたくないなら仕方がないよねー。」
「ちょっと待って下さい…」
「やります…。」
「交渉成立♪」
言ってしまった。確かに後先考え無さすぎかもしれない。けれど、だけど、『時は金なり』という言葉があるように、高校3年の青春の1ページを捧げるだけで1000万を手に入れることができるなら安いものだろう。
青春なんて言うが俺には…。
「どうせ青春なんてないしな…。」
「ん?どうかした?」
「いや、何も。」
「じゃあさ、今週の日曜日にこの名刺に書かれてるところに来てよ。」
﹉ ﹉ ﹉ ﹉ ﹉ ﹉ ﹉ ﹉ ﹉ ﹉ ﹉ ﹉ ﹉ ﹉ ﹉ ﹉ ﹉ ﹉ ﹉ ﹉
俺は黛と食事をした後、ファミレスを後にした。
そして、我が家。
相変わらず帰っても誰もおらず閑散としている。
その時俺は「名前を知ってた理由や、やっぱり実験参加をやめることができるか」を聞き忘れていたが、楽観視していた。
まだあの時は甘かったのかもしれない。
第3話です。
この話を書いている時は、小倉唯さんの曲を聞いて耳が洗練されていたので、結構早く書けました笑。
おじさん高校生からしたら、尊すぎます笑。
是非、皆さんも聞いて見てください。
声が天使です。