7 サンドイッチとクッキー
今日のサンドイッチはハンバーグが挟んであったり薄くスライスされた肉が挟んであったりと、ボリューム満点だ。野菜も一緒に挟んであるので全くしつこくない。三人は夢中で食べた。
ベルティナとセリナージェは三人のその様子をニコニコしながら見て、二人はゆっくり味わっている。
三人の食欲が充分に満たされようで、飲み物をゆっくりと飲み始めた。
「今日のお料理はねぇ、ベルティナが作ってくれたのよっ!」
三人の満腹を待ってセリナージェが発表した。
「「「え?!」」」
当然、料理人が作ったと思っていた三人は目をクリクリに見開いた。
『三人ともそんな顔でもかっこいいのね。美形ってすごいわ』
ベルティナは素っ頓狂なことを考えて苦笑いした。セリナージェの言葉に言い訳する。
「セリナも朝から手伝ってくれたじゃないの。料理長もね。みんなで作ったのよ」
「もうっ! ベルティナったら、本当に真面目過ぎるわ。
いいじゃない。メインはベルティナなんだから。ベルティナが作ったでいいのよ」
「いや、セリナも一緒だったんだろう。二人ともありがとう。すごくうまかった」
クレメンティはすかさずセリナージェも褒める。
「うんうん! 俺たちの好みをわかってくれてるって感じだった。ホントに美味かったよ。俺、肉大好き!」
「イルはお野菜を一緒にしなかったら、お肉だけ食べそうだものね。時々、野菜をレムのお皿に乗せているのは知っているのよ」
ベルティナがお姉さんのような口調でイルミネをからかう。
「バレてたかっ! ベルティナ。レムは気がついていないんだから言わないでよ」
クレメンティがイルミネの頭をコツンと叩いて、みんなが大笑いした。
「ああ、うまかったな。こんなサンドイッチ初めて食べたよ。二人ともすごいな」
三人のベタ褒めに、二人は照れる。
そうしてしばらく話をしていると、イルミネが突然立ち上がった。
「なあ! 定番そうな、あれっ! やろうよっ!」
イルミネがベルティナとセリナージェの手を取り引っ張っていく。エリオとクレメンティも慌てて追いかけた。
五人はストックの木の根本まで来て、手をつないだまま木の幹を囲う。あまりの定番に五人はクスクス笑いが止まらない。エリオとクレメンティの手がつながれば成功だ。
「届いたぁ?」
「「まだぁ!」」
男の子3人が声を掛け合う。イルミネはベルティナとセリナージェの手を少しずつ離す。
「届いたぁ?」
「「もう少しぃ!」」
イルミネの手はもうベルティナとセリナージェの指先しか握っていない。
「「届いたぁ!!」」
五人は大笑いしながら手を離してシートまで戻った。まるで小さな子供になったみたいで純粋に楽しくて笑えた。
それからまたしばらく、ゴロゴロしたりおしゃべりしたり、ゆっくりとした時間を過ごす。
「こういう時間っていいな……」
エリオが寝っ転がったまま背伸びをしながら呟いた。
「そうだな。俺たちはあちらじゃなかなか、なぁ〜」
イルミネは座って背伸びをした。
「うーん。でもあちらでも、こういう時間がほしくなるなぁ……」
クレメンティは大きく開いた膝を抱えてどっしりと座り、王都を眩しそうに眺める。
ベルティナとセリナージェは高位貴族子息ならではの忙しさがあるのだろうと察する。二人は三人にこの時間を持たせてあげられたことを嬉しく思った。
そろそろいい時間になったので片付けを始めた。まだ少し日は高いが寮の門限がある。
「夕日は見れなかったわね」
ベルティナはまだ明るい王都の町並みを見ていた。
「うん。じゃあ、また冬近くになったら来ようよ。それなら門限にも間に合うさ」
エリオが隣に並んで同じ景色を見ながらそう言った。
「また一緒に見ることができるかしら?」
ベルティナはその時に思いを馳せる。なんとなく叶う夢のような気がして口角を優しく上げた。
「うん。絶対だよ。約束する」
エリオはベルティナの後ろ姿に約束の言葉を投げた。
「そうね。ふふふ、楽しみだわ」
ベルティナは、その時近くにいたのがエリオだけで、二人で約束したなんておもっていなかった。
そして、さらに後ろから声がかかる。
「本当にいい景色ね。来てよかったわ」
「ああ、とってもいい休日になった」
クレメンティは景色でなくセリナージェの笑顔の横顔を見ていた。
「レムにとっては、特にねぇ」
クレメンティはイルミネに回し蹴りをしたが、イルミネがヒョイッと避ける。ニヤニヤとしてクレメンティをからかう。二人は殴ったり逃げたり蹴ったり避けたり、数手のやり取りをした。
すぐ隣にいたセリナージェはびっくりしている。少しだけ離れて様子を見ていたベルティナとエリオは、笑っていた。
馬車で学園の近くまで三人を送る。ベルティナとセリナージェは今日と明日は屋敷に泊まって、月曜日の朝に学園へ帰る予定だ。
三人が馬車を降りた。ベルティナとセリナージェも紙袋を三つ持って一緒に降りる。
「これは、私も最初から最後までやったわよ」
「ふふふ、そうね。
これ、おやつに出そうと思ったけど、三人ともお腹いっぱいだったみたいだったから。お土産だと思ってね」
ベルティナがエリオとイルミネに渡した。セリナージェはクレメンティに渡す。
「開けていい?」
エリオが少し上目遣いで二人に聞いた。
「「どうぞ!」」
「わぉ! クッキーじゃん! スゴイ! カラフルだね! 色んな味になってるのかな?」
イルミネが喜びの声をあげた。
「そうよ。楽しんで食べてね」
セリナージェの自信満々な様子が可愛らしくて、ベルティナはつい笑ってしまう。
「ありがとう。すごく嬉しいよ」
「ああ、楽しみだな」
三人があまりにも中を真剣に見ているので、ベルティナが照れてしまった。
「あ、あんまり期待しすぎないで、ね」
「もう、ベルティナったらっ! こういうときは、自信持って渡した方が美味しいのよ!」
「そうかもしれないな。ハハハ。セリナ。楽しみに味わうよ」
クレメンティの言葉に今度はセリナージェが照れてしまった。
「じゃあ、今、感想を言ってしまおう!」
そう言って、イルミネが1つをパクリと食べた。
「バターのいい香りだ。これはどうして緑なの?」
「ほうれん草が入っているのよ」
「え“?」
エリオがカエルが潰されたような声を出した。エリオがほうれん草を嫌いなようだと、ベルティナは気がついていた。イルミネと違って我慢して食べているが残すことも多い。
エリオの一言にベルティナはクスクスと笑う。
「エリオ。1つ食べてみたらいいよ。全くわかんないから」
イルミネのおすすめにエリオが恐る恐る口した。そして、目を見開いた。
「あれ? うまい……」
「ふふふ、よかったわ。エリオに食べてほしくて作ったのよ」
ベルティナが笑顔でそう言うので、エリオは頭をかきながら照れていた。
「じゃあ、レムは、この赤いのを食べてみて!」
セリナージェがクレメンティの袋からオレンジ色っぽいクッキーを出してクレメンティの口元に持っていった。クレメンティは肩を揺らしてびっくりした。セリナージェもそれで自分のしていることに気がついて手を引こうとした。しかし、一瞬はやく、クレメンティがセリナージェの手首を掴んで、セリナージェの手にあったクッキーを口に入れた。セリナージェは真っ赤になった。
「うまい!」
クレメンティは笑顔だったがまだセリナージェの手首を離さない。
ベルティナはそれをないかのように話をすすめた。
「それは、人参入り、ね。ふふふ」
「え“?」
クレメンティはびっくりしてセリナージェの手首を離した。セリナージェは顔を赤くしたままで話ができそうもない。
「ああ! 俺には好き嫌いがないから工夫なんてしてもらえないやぁ」
イルミネが口を尖らせた。イルミネが野菜をクレメンティの皿に乗せるのは、野菜嫌いなわけではなくクレメンティで遊んでいるだけなのだ。
「イルの袋には多めにナッツクッキーを入れておいたわ」
「ベルティナ! 本当に? やったぁ! 楽しみだなぁ!」
イルミネがあまりにはしゃぐので、みんなもついつい笑ってしまった。
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ベルティナとセリナージェは久しぶりに1つのベッドで寝ることにした。ベッドに入ってもすぐに寝れるわけじゃない。二人で寝るので尚更である。
ベルティナの隣で横になっているセリナージェが今日の出来事を興奮したように話している。ベルティナはほとんど知っている話にも関わらず、セリナージェの様子があまりにも可愛らしくてずっと聞いていられた。小さく相槌を打ちながらセリナージェの話を聞いている。
セリナージェが急におとなしくなったと思ったらお話の内容が少しだけ変わった。
「ねぇ、ベルティナ。レムは私のことどう思っているのかしら?」
「どうって?」
「あの……私、からかわれているのかな?」
少し不安の混じる声にベルティナはセリナージェの顔を見た。
セリナージェは毛布を目元まで持ってきて顔を隠した。赤くなっているかもしれない。ここでクレメンティの名前が出るということは、クレメンティがセリナージェとベルティナに差をつけて接していることはわかっているのだろう。
「セリナはレムがどういう男の子だと思っているの?」
ベルティナは予想しているクレメンティの気持ちのことをわざと言わなかった。
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