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23 ダンス

「わぉ! 観察力はさすがだね。俺たちの演技もまだまだだな」


 今度はイルミネが頭をかきあげようとして髪を触って手をおろす。


「僕は今は王子だけど、兄上が来年王太子になるのと同時に公爵を賜ることになっている。

後は、我が国には外交部がないからね。僕たちで外交部の基礎みたいなものを作ることになっていているんだ。この留学はその練習なんだよ」


「レムが『困らない地位はすでに約束されている』って、ロゼリンダ様に言っていたのでしょう?ベルティナから聞いたわ。その外交部のことなのね?」


 セリナージェがクレメンティに聞いた。


「ああ、そうだよ。公爵家は継ぐけど、しばらくは領地経営は無理そうかな」


 クレメンティはセリナージェの手を強く握った。


「休みの日などは、ここへ来て外交部の見学とか仕事の説明とかしてもらっていたんだ」


 イルミネは軽食をつまみながら答えた。


「国王陛下には、すごくよくしていただいてね。それで今回新年パーティーにも招待されたってわけ。二人がパートナーになってくれてうれしかったよ」


 エリオもベルティナの手を強く握った。


「ところで、三人は本当は何ヶ国語が話せるの?」


 ベルティナの質問に、イルミネがギョッとした目でベルティナを見た。


「プハハ! ベルティナにかかると、それもわかっちゃうのか? 僕はあと三ヶ国語だ」 


 エリオが吹き出した。ベルティナの観察力の素晴らしさに感嘆もしていた。

 ピッツォーネ王国はスピラリニ王国の他に三ヶ国と隣接している。


「僕はあと二ヶ国だ。北の言葉は、勉強中」


「俺はまだ北だけ。レムと反対周りで覚えていってるんだ」


 セリナージェは小さく口を開いていた。


「で? ベルティナは?」


「私もイルと一緒。北だけよ」


 北の国は、スピラリニ王国とピッツォーネ王国、両国と隣接している国である。


「今のところは。だろ?」


 エリオがベルティナの心を読むようにウィンクした。


「そうね。そのつもりは、あるわ」


 ベルティナが笑顔で答えた。セリナージェが目を回しそうで口をパクパクしている。


「あ、あのね、セリナ。もし、外交に同行することになっても、君が会うのは高官だけだから、大陸共通語で充分だよ」


 クレメンティは必死にセリナージェを説得しはじめた。言葉ができるできないでフラレてはたまらない。クレメンティはそれほどセリナージェが好きだった。


「ブッ! ハーハッハ!

レム! 外交に同行するのは妻だけだぞ。恋人では無理だよねぇ」


 イルミネがクレメンティをからかう。セリナージェは真っ赤になってシャンパンを一気に煽った。炭酸が喉の刺激になりすぎて、セリナージェがむせて咳をし始めた。クレメンティは慌ててセリナージェの背を擦る。

 エリオがイルミネの頭を『コツン』と叩いた。


「ごっめーん」


 ベルティナだけがクスクスと笑っている。セリナージェの咳が落ち着いたのを見てイルミネが立ち上がった。


「エリオ。僕たちは先に会場へ戻る。来賓ダンスは抜けられない。後で声かけるから」


「ああ、頼むよ」


 クレメンティがセリナージェの手をとって立ち上がる。三人が出ていった。


 エリオがメイドにシャンパンのおかわりを頼んだ。二人でグラスを合わせた。


「違和感って、いつから?」


「春休みに王都の案内をしたでしょう。その時には、なんとなく、エリオが一番上位だろうって思っていたの。それなのに、学園での紹介はあなたが子爵家だと自己紹介するんだもの」


「なるほど、二人は僕の側近なんだ。イルは護衛でもある。ああ見えて強いんだよ」


「うん、それはすぐにわかったわ。イルは動きが騎士という感じよね」


 イルミネのことを思い出してベルティナは思わず笑った。


「そうか」


「三人が同等の爵位っていうなら違和感はなかったかも。エリオが子爵っていうのは無理があったわね。

それに、席順よ。あれでは守られているのは、どう見てもレムでなくエリオだわ」


 エリオの席順は、前はイルミネ、横は壁とクレメンティ、後ろはセリナージェだ。


「なるほどね。長期に身分を偽装するって難しいんだね」


「そうね」


「ところで、ベルティナ。僕は本気だよ。学園を卒業したら、僕と一緒にピッツォーネ王国へ行ってほしい。そして、僕の妻になってほしいんだ」


 エリオは真剣な眼差しだった。ベルティナは正直とても嬉しかった。それでも、ベルティナには少しだけ不安がある。


「もしかして、そのために私は侯爵家の養子になったの?」


「それは違うよ! 僕がベルティナが侯爵令嬢であることを知ったのは、あの丘で夕日を見てから一月も過ぎてからだよ。あの丘でのことに嘘の気持ちはないよ」


「そうなのね。あの丘でのあなたを信じたいわ」


「僕も信じてほしいよ」


「あのね、もし、あの丘の前に告白されていたら、私、きっとお断りしていたわ」


「え?」


 エリオは、少しだけ顔を青くした。


『コンコンコン』


「エリオ。ベルティナ。時間だよ」


 『お断りしていた』そんなショックな言葉を聞いたばかりでタイムアップだ。


「ダンスが終わったらまた時間をくれる?」


 エリオは慌ててベルティナと約束をしようとした。ベルティナはにっこり笑って頷いた。


 会場に戻ればすぐにダンスタイムだった。国王陛下夫妻がダンスを披露する。まだ幼い王子と王女は踊らないようだ。

 今夜の来賓とはエリオ組とクレメンティ組しかいない。エリオとベルティナは手を取り合ってホールの中央へ進みダンスを披露する。授業では何度か踊っていたので慣れているはずだった。


 でも、プロポーズされた後だ。ドキドキが増していく。


『ち、近いわ。ダンスって、こんなに近かったかしら? 私のドキドキが伝わってしまうわ』


 ベルティナは少し慌てた。


「いつもよりドキドキするね。ベルティナが僕と一緒にいてくれるって言ってくれて、嬉しすぎてドキドキが止まらないよ。手に汗もかいちゃった。気持ち悪くない?」


 エリオは苦笑いで自信無げであった。ベルティナはエリオが自分と同じ思いであることに驚いた。


「エリオもドキドキしているの?」


 ベルティナの心は凪いだ。


『本当にこの人の隣はいつでも心地がいいわ』


「うん。だって、いつもはかわいいベルティナが、今日はとてもキレイだからさ。こんなに美しいベルティナが僕の隣にいてくれるなんて嬉しいよ」


 おさまったはずのベルティナの心は、違うドキドキが始まってしまった。


「本当? エリオに褒められるのは嬉しいわ。エリオもステキよ。まるで王子様みたい」


 ベルティナはドキドキを隠すため、エリオを褒めた。優しげに笑うエリオと目を合わせると笑顔になれる。


「えー! これでも本物の王子なんだけどなぁ。アハハ!

はい、これで、終わりっ!」


 最後にはベルティナがクルッとまわって、会場にカーテシーをして二人でさがった。この後のホールは自由ダンスとなるはずだ。


「ベルティナとのダンスはいつでも楽しいな。よしっ! 先程の部屋に戻ろうか」


 外交としての動きは一通りダンスが終わった後になるので少し時間がある。


「じゃあ、軽食と飲み物を頼んでこよう。二人には甘いものもね」


 イルミネがベルティナとセリナージェにウィンクして、給仕係の方へと向かった。ベルティナたちは先程の部屋へと廊下を歩く。ベルティナたちの少し前にセリナージェとクレメンティが腕を組んで歩いていった。


〰️ 


 ベルティナたちは控室へと向かっていた。控室のさらに奥はレストルームになっている。


 後ろからダンダンダンと勢いよく誰かが走ってきた。レストルームへ急いでいるのかもしれない。エリオとベルティナは端に寄ろうとした。


 だが、ベルティナは振り返る間もなく、肩を掴まれて床に投げ出された。


 それはタビアーノ男爵だった。


「お前はっ! どこまでワシをバカにするんだっ! お前みたいな薄汚いヤツが、なぜ、王子のパートナーなんぞになっているんだっ!」


 タビアーノ男爵はツバを撒き散らしながら喚いた。


「チッ!」


 エリオはタビアーノ男爵に話しかけられたら、王族として拒否しようと考えてはいた。タビアーノ男爵の凶行はエリオの予想の上だった。

 まさか外からの賊でもないのにパーティー会場でこんなことをする者がいるとは思わない。さらに隣国の王子のパートナーを傷つけるなどあっていい訳はない。エリオはそう考えて気を抜いていた自分に舌打ちした。


 ここは王城のパーティーだ。どんな理由があっても女性に暴力を振るえば数秒で拘束される。タビアーノ男爵もすぐに両脇を衛兵に獲られた。

 

 エリオは衛兵がタビアーノ男爵を捕まえるより早く、すぐさまベルティナの前に座り背に庇い、物凄い形相でタビアーノ男爵を睨んだ。クレメンティもセリナージェを背に隠す。

 イルミネは皿を投げるように置いて、走って戻ってきた。そして、エリオの少し前に陣取った。イルミネの顔も怒りで歪んでいた。


「イル。頼んだぞ」


 エリオの一言でイルミネは平常心を取り戻し、少しだけ後ろに顔を向け、エリオに小さく頭を下げた。


 タビアーノ男爵の後を追いかけてきていたのだろう。ティエポロ侯爵夫妻がすぐ後ろにいた。そして、ティエポロ侯爵はイルミネとほぼ並ぶように立った。


「私の娘に向かって薄汚いとはどういうことだ。

お前が、食事も与えないから痩せ細り、殴る蹴るの暴行をし続け青あざだらけだった時のベルティナの話をしているわけではあるまいなぁ」


 ティエポロ侯爵の怒りでさらに低くなった声は怒鳴らずとも聞き取りやすく、多くのギャラリーの耳に届いた。


「「「ひっ」」」


 すでにいたギャラリーのご婦人の中には、ティエポロ侯爵が発した言葉に気絶をした人もいた。

 しかし、指摘された当のタビアーノ男爵はティエポロ侯爵をギロリと睨んだ。


「そうか、わかったぞ! ベルティナが王子を誑すことが成功したから、ベルティナを養子にしたんだな。

こんな養子縁組は無効だっ! ベルティナが王家に嫁に行くというなら、絶対に我が家から嫁がせる!」


 タビアーノ男爵は衛兵を振り払うような勢いで怒鳴り散らした。


「きさまっ……。私を愚弄しているのか? 養子の手続きは三月も前に済んでいるではないか。エリオという少年が王子殿下であったということを、私たちが知ったのは、つい、昨日だ。侮辱罪で訴えるぞ!」


 ティエポロ侯爵はワナワナと怒りで震えていたが、多少声は大きいものの、怒鳴るというほどではない。侯爵としての矜持がタビアーノ男爵のように暴れることは抑えてさせていた。


「いつ知ったかなどは口では何とでも言える。俺たちを騙したんだなっ! 誘拐で訴えてやるっ!」


 タビアーノ男爵は髪を振り乱して今にもティエポロ侯爵に噛みつきそうだ。

後3話程の予定です。


ご意見ご感想、評価などをいただけますと嬉しいです。


毎日、午前中に更新予定です!

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