22 新年パーティー
確かに新年のパーティーのパートナーは頼まれた。『一番おしゃれをしてきて』とも言われたし、『ドレスは間に合わなかったから』と言われて送られたのはすごいアクセサリーだったし、それに合わせてお姉様方がドレスを貸してくれたり、髪をセットしてくれたり、お化粧もしてくれた。
双子のお姉様たちがベルティナたちの年の頃に着ていたというドレスを簡単に仕立て直ししたものを着ているので、ベルティナとセリナージェはまるで双子のようだった。
迎えに来てくれたエリオとクレメンティは、とっても喜んでくれたし、すごく褒めてくれたし、二人が贈ってくれたアクセサリーもまるで双子のようだったので、ちょうどよかった。
だ・け・ど、エリオとクレメンティとともに会場に到着してみれば…………
そこは王城であった。
「ねぇ、ベルティナ……。お姉様方はこれを知っていたわねぇ」
二人とも随分と大人びた化粧をしてくれるのだなと思っていた。
「ということは、お義父様お義母様もご存知ねぇ」
ティエポロ侯爵夫人が『また後でね』と笑顔で言っていた。
「「ふぅ……」」
二人は顔を合わせて、再び王城を見上げた。そんな二人を、イルミネがクスクスと笑って見ていた。
エリオとクレメンティがそれぞれエスコートのため腕を差し出す。ベルティナもセリナージェも『女は度胸!』とその腕に手を置いた。
「ベルティナ。約束してほしいんだ。これから何が起こっても、僕を信じてほしい」
エリオの腕に通されたベルティナの手をエリオはギュッと握った。まるで逃さないと言われているようだ。
「これ以上まだ何かあるの?ふぅ。
でも、もういいわ。ストックの丘でもそう言われたし。私はエリオを信じているわよ」
「うん! 何があっても君を守ると誓うし、隣にいてほしいのは、君だけだから」
エリオはベルティナに力強く頷いた。
「ありがとう、エリオ。私もあなたの隣にいたいわ」
ベルティナは心からエリオに微笑むことができた。
「よし、じゃあ行こう!」
大きな扉の前にたくさんの人が溢れ、文官の紹介とともに会場入りしていく。
前には、ランレーリオとロゼリンダがいて、ロゼリンダがこちらに手を振っている。ベルティナとセリナージェが手を振り返す。
その前あたりにティエポロ侯爵夫妻と兄夫妻がいるはずだが人混みで見えない。
伯爵家以上で成人している者は呼ばれているので、お姉様たちも前の方にはいるはずだ。自分たちも参加するため支度があるのに、ベルティナとセリナージェのお支度のお手伝いをしてくれたお姉様たちにはとても感謝している。
身分の低い者から入場なのだが、エリオは子爵でも海外からのお客様だ。公爵子息のランレーリオより後になるのだろう。
とはいえ、ベルティナはエリオは子爵でないだろうと思っている。
『私たちはレムの前かしらね』
ベルティナはそう考えて待っていた。
次々と紹介のアナウンスがされ入場していく。残るはクレメンティ組とエリオ組だけになった。
「ピッツォーネ王国より、お越しいただきました、ガットゥーゾ公爵家クレメンティ様。お連れ様はティエポロ侯爵家セリナージェ様でございます」
文官が紹介文を先に読んだのは、クレメンティだった。
「「え?」」
ベルティナは少しだけびっくりしたし、セリナージェはベルティナをチラチラ見ていた。しかし、セリナージェのすぐ目の前は会場だ。ティエポロ侯爵家の令嬢としても恥をかくわけにはいかない。
大きな拍手の中、クレメンティとセリナージェが進む。セリナージェはクレメンティと目を合わせてから笑顔を取り戻せたようだ。
一人残されたベルティナは人知れずその順番にため息が出る。そんなことを知らない文官は先に進める。
「最後でございます。ピッツォーネ王国よりお越しいただきました、ピッツォーネ王家エリージオ第三王子殿下。お連れ様はティエポロ侯爵家ベルティナ様でございます。お付きはマーディア伯爵家イルミネ様でございます」
クレメンティたちの時よりさらに大きな拍手で迎えられた。
「ベルティナ。大丈夫だから、ね」
エリオの声を聞いたらベルティナは全く平気になった。
『この人を信じるのと決めたのだもの』
ベルティナの心は決まっていた。
「ええ、知ってるわ」
ベルティナが笑顔でエリオにそう答えると、後ろのイルミネが小さく吹き出した。エリオも笑顔で返した。
エリオとベルティナが腕を組んで前へ進み、後ろにはイルミネがついている。イルミネが入場すると大扉が閉まる。三人は王族が立つ予定の舞台の真ん前まで進んだ。
「それでは、スピラリニ王国国王陛下並びに王妃殿下、並びに王子殿下王女殿下のご入場です」
文官の進行に会場全体が頭を垂れる。楽団が美しい音楽を奏で、舞台の上に貫禄のある面々が現れた。
音楽が止む。
「みな、面をあげてくれ」
『ザッ!』
国王陛下へと向く。ベルティナが初めて近くで見た国王陛下はとても堂々としており、年若いはずなのにとても貫禄があった。
「みなのお陰で、また新しい年を迎えることができた。感謝している。今宵は存分に楽しんでほしい」
『ザッ!』
会場全体が頭を垂れる。
国王陛下が手で合図を送れば、優雅な曲が、話し声を邪魔しない程度に流れ始めた。
王家の面々が、椅子に座った。
文官が国王陛下に招待客の紹介を始める。これは、入場と逆でエリオたちから始まる。
「ピッツォーネ王国からお越しいただきました、ピッツォーネ王家エリージオ第三王子殿下。お連れ様は、ティエポロ侯爵家ベルティナ様でございます。お付きは、マーディア伯爵家イルミネ様でございます。
並びにピッツォーネ王国からお越しいただきました、ガットゥーゾ公爵家クレメンティ様、お連れ様はティエポロ侯爵家セリナージェ様でございます」
「新年おめでとうございます、国王陛下、王妃殿下、並びに王子殿下、王女殿下。今宵はご招待いただきまして、誠にありがとうございます」
エリオとともに五人で頭を下げる。
「よい、面を上げてくれ」
「はっ! 国王陛下におかれましては、ご健勝であらせられるご様子。大変嬉しきことと存じます」
「うむ、学園の方はどうだ?」
「はい、大変勉強になっております」
「今日の様子だと良い縁もあったようだの」
ベルティナは国王陛下の笑顔にまさか国王陛下にまで知られているのか?と内心ドキドキした。
「はい。国王陛下のご理解をいただきまして、大変感謝をしております」
「あと、三月、学園生活を楽しまれよ」
「はっ! ありがとうございます」
また五人で頭を下げ、今度はすぐに頭を上げて横へと下がる。
後ろには公爵家から伯爵家が並んでいる。国王陛下に挨拶できるのは伯爵家までだ。後は特別に何かあったときに挨拶できることもある。
五人は舞台の手前の方の高位貴族が多くいるべき位置に立った。イルミネがエリオに耳打ちする。
「ベルティナ。君の元両親もいらしている」
当然のことなのにベルティナは肩を揺らしてしまった。
「なるべく僕と離れないでね。レストルームを使いたいときには、セリナと一緒に。近くまでイルミネも連れていくんだよ」
「はい」
ベルティナは少しだけ不安だったが、頑張って顔に出さないようにした。
「まだ、ご挨拶は続きます。休憩室を取りましたのでそちらへ」
イルミネの先導で休憩室へ向かった。
〰️
「やっぱり、緊張するねぇ!ハハハ」
イルミネは入室とともにいつもの調子になった。五人でソファーテーブルにつく。メイドが飲み物を持って来てくれた。
イルミネがまず口にして頷く。毒味をしたようだ。エリオはイルミネが口にしたものをとった。
「シャンパンか。ベルティナ。セリナ。果実水でももらうかい?」
「私たちはこれで大丈夫よ。それより、エリオ、説明してくれる?」
エリオは隣に座るベルティナの手を握った。
エリオはシャンパンを一口飲み、ゆっくり話始めた。
「騙していたみたいになってごめんね。正直なところ、こんなに大切に思える女性と出会えるなんて思っていなかったんだ」
エリオはいつものクセで頭に手をあてるが、整髪剤を触って手を引っ込めた。本当は照れ隠して頭をかきたかったのだろう。
「ふふふ、あ、ごめん、なんでもないわ」
ベルティナはエリオがやりたかったことを想像して笑ってしまう。ベルティナには余裕があるようだ。
「四月の頃のレムの様子を知っているだろう?公爵家のレムでさえ、あんな状態だったんだよ。僕が王族だと知ったらどうなっていたか……。
パッセラ子爵家はね、母上の実家なんだ」
エリオはもしもの想像をして苦笑いをした。みんなもその状況をよぉく知っているので、クスクスと笑いが出る。
エリオがベルティナの顔を見た。
「ベルティナは薄々感づいていたよね」
エリオが断定した。
「「「え?」」」
三人は驚いていた。ベルティナだけは笑顔で返した。
「エリオは私が気がついていることに気がついていたのね。ふふふ。
ええ気がついていたわ。三人の関係性がおかしいと思ったのよ。レムもイルも、時々、エリオを上の者として扱うから。
最初はレムとエリオの爵位を取り替えているのだと思ったのよ。だけど、セリナとのことでレムは本物の公爵家だとわかったでしょう。
だから、エリオは筆頭公爵様、または大公様かなって。まさか王子殿下であるとまでは想像しなかったわ」
公爵同士でも差がつくことはある。
ベルティナのきちんとした説明にエリオでさえびっくりしていた。
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