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失ったものと得たもの

「どういう事でしょう? 私は聖女ですよ?」

「ええ、愚かしい事に、私も少し前まではそう思っていました」

 ルースが嘆かわしそうに言った。


「ですが、私はその事に対して疑問を覚えてしまったのです。クレアは本当に聖女なのか? いや、そうではない。そんな考えがどんどん強くなっていって……。こうして会って確信しました。君はやはり偽物だ」


「ルースさん、何を言っているんですか?」


 クレアは困惑する。ルースの目は至って真剣だが、その話の内容は支離滅裂に感じられたのだ。


「私が偽物? どういう事です?」

「もちろん、君は青嵐の鬼女だった、そういう事です」


 ルースがクレアの左耳を指差した。


「それが何よりの証拠です」


 クレアは思わずルースが指したところに触れた。そして、「えっ?」と声を上げてしまう。


 クレアはこの時初めて異変に気が付いた。自分の左耳に何かが付いているのだ。逸る思いで廊下に設置された鏡を見ると、そこに映った姿に驚愕した。


 右耳から、聖女の証である青いイヤリングがなくなっていた。その代わりとでも言うかのように、左耳に新たなイヤリングがついているではないか。その藍色のアクセサリーは、本来ならば、青嵐の鬼女がつける事になっているはずのものだった。


「ど、どうしてこれが……?」


 クレアはパニックになった。こんなものが自分の耳についていて良いはずがない。姿見の中の自分の姿に猛烈な違和感を覚え、クレアは慌てて左耳からイヤリングを外そうとした。だが、無駄だった。このイヤリングは自力では外せないのだ。


「ルース、何をしているんだ」

「早く行こうではないか。ロビンはすでに向かったと聞いているよ?」


 クレアが鏡の前で奮闘していると、今度はセシルとカルヴァンがやって来る。二人とも、当然のようにクレアに興味を示す様子はなかった。


「そうですね」

 クレアがイヤリングを外そうとするのを冷めた目で見ていたルースが頷く。


「早く行かなければ。我々の愛を捧げて、聖女の力を強める手伝いをしないと……」

「聖女のもとへ行く……?」


 ふと手を止めて、クレアは訝しんだ。それではまるで、すでに他の聖女がいるような口ぶりではないか。


「皆さん、一体どこへ行くつもりなんですか?」

「何だ、分かり切った事を」

 セシルがクレアを胡散臭そうに見た。


「ドローレスだ。他に誰がいる?」


 それだけ言うと、皆は行ってしまった。クレアは呆然となる。全ての事が突然すぎて、何が起こったのかまだよく分からない。ただ、自分がもう聖女ではなくなってしまったのだという事だけしか理解できなかった。

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