あるハーレムに花束を
「う……うう……?」
手負いの獣のような声と共に、クレアは意識を取り戻した。ソファーの上からのっそりと起き上がる。
ぼんやりする頭をしばらく捻った後、何があったのかクレアは思い出した。自分はネルソンといたところ、何故か意識を失ってしまったのだ。
だが、辺りを見回しても、どこにもネルソンはいなかった。あれは夢だったのだろうか。あまりにも彼を欲するあまり、幻を見てしまったのかもしれない。
しかし、それにしては妙に生々しく彼の手の感触や肌にかかった息を覚えている。何より、彼に触れられた部分がまだ温みを持っているような気がしたのだ。
どうしてもあれを自分の妄想だとは片付けたくなくて、クレアはふらりと立ち上がった。ネルソンを探し出して、問いただそうと思ったのだ。
外に出ると、向こうからロビンが走ってくるのが見える。ちょうど良い。彼にネルソンの姿をこの辺で見なかったか聞いてみようと思い、クレアは声を掛けた。
「ロビンさん」
だが、彼は立ち止まらずにそのまま走り去ってしまった。クレアはポカンとする。ハーレムのメンバーに無視されるなんて、今までになかった事だ。
(聞こえなかったんでしょうか……?)
何だか急いでいたようだしと、ロビンが去っていった方を見ながらクレアが無理に自分を納得させていると、今度はルースがやって来た。気を取り直して、次は彼に話しかける事にした。
だが、ルースもクレアの声など聞こえていないかのような反応をした。クレアは愕然となって、思わず彼の腕を掴む。
「何ですか?」
そこまでされれば、流石に無視はできないと思ったのか、ルースは返事をした。だが、その声はどこか面倒くさそうであった。
「私は急いでいるのですが」
「どうしたんですか、ルースさん」
あまりに冷淡な態度に、クレアは不可解な気持ちになる。
「何か変ですよ」
「別にそんな事はありません。いつも通りです」
ルースはそっけなく言った。
「ただ、私は鬼女に用などないというだけです」
「えっ、鬼女?」
クレアは何を言われたのか分からなかった。ルースの言い方では、自分の事を指して、『鬼女』と言っているように聞こえたのだ。




