表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/124

ネルソンの約束

 不意にネルソンが腕を掴んできた。何の警戒もしていなかったドローレスは、そのまま彼の胸元へと引き寄せられる。


 ネルソンの指が耳朶に触れ、ドローレスは彼の両手で顔を包み込まれた。半ば強制的に上を向かされると、ネルソンの顔が降ってくる。口付けをしようとしているのだとドローレスはとっさに判断した。


「やめてっ!」


 ドローレスは反射的に拒絶の言葉を吐いて、彼の肩を乱暴に押しのけた。きっとネルソンは、ドローレスの事をキス一つで機嫌が直るような安い女だと思ったのだろう。


 そんな想像が脳内を駆け巡り、ドローレスは彼に蔑まれたような気がした。屈辱で顔が歪む。


「もう私に触らないで! さっさとヒルダさんのところへ行きなさいよ!」


「……いや、ヒルダの所へは行かないよ」

 ドローレスに押しのけられた体勢のまま、ネルソンが静かに言った。


「僕はクレアの所へ行く」

「そう! 行けばいいでしょう!」


 もはや彼が何を言い出してもドローレスは驚かなかった。やはりあの噂は本当だったのだ。ネルソンも、とうとうクレアの毒のような魅力に侵されてしまったのだろう。あの魔法のような、人を引き付ける力に。


 ネルソンはクレアの愛を独占したい。そして、ヒルダの事も手に入れたい。何て欲張りなのだろう。


 だが、心のどこかに穴が空いたように痛みが広がっていくのもまた事実だった。そんなネルソンの所有欲を、自分が占有できない事を嘆いているのだと気が付いて、ドローレスは自己嫌悪に陥り、破れかぶれになった。


「出て行って!」


 ドローレスはこれ以上自分の中が掻き乱されていくのに恐怖を覚えた。


「もうたくさんよ! 私、あなたの事なんて……」

「好きだよ、ドローレスさん」


 ネルソンの告白がドローレスの罵倒の言葉を掻き消した。


「またここに戻ってくるから……。その時は、もうこれから先、絶対にあなたを不幸にするような事はしないと約束する。だから……」


「知らないわ!」

 ドローレスは彼の肩を小突いた。


「行って!」


 ドローレスは歯を食いしばった。ネルソンは今度は大人しくそれに従う。


 誰もいなくなった部屋でドローレスは床に崩れ落ち、そのまま泣き声を上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ