表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/124

葛藤

 自室のベッドに突っ伏して泣いていたドローレスは、ドアをノックする音で我に返った。扉の向こうから聞こえてきた声は、ネルソンのものだ。


「ドローレスさん? いるんだろう?」


 ドローレスはのろのろとベッドから身を起こした。だが、彼に中に入ってほしいのか、追い返したいのか、よく分からなかった。


 それだけではない。今のドローレスは、自分の中が空っぽになってしまったかのように、何も考える事が出来なくなっていた。


「開けるよ?」


 ドローレスが中々返事を返さない事に痺れを切らしたのか、ネルソンは自らドアを開けた。他の修道者たちの個室と同じく、ドローレスの部屋にも鍵はついていないのだ。


「何しに来たのよ」

 ドローレスは乾いた声を出した。


 ネルソンはこちらを労わるような表情をしていた。ドローレスはその顔を見た瞬間に、自身の中の空洞が埋まっていくのを感じる。自らの心が震えているのに気が付いたドローレスは、ひどく惨めな気持ちになった。


「帰って」


 ドローレスは反射的に立ち上がると、頬を伝う涙を手の甲で乱暴に拭った。


「私が言った事、忘れたの? 私たち、もう終わったのよ」


 胸が軋むように痛んだ。こんな言葉は吐きたくない。ネルソンさえここからいなくなってくれれば、そんな発言をしなくて済むのにと思うと、彼に対する訳の分からない怒りが込み上げてくるようだ。


「ドローレスさん、そんな事言わないでくれ」


 ネルソンがドローレスとの距離を詰めてくる。ドローレスは無意識の内に後ずさりしていた。


「もう私の事なんて放っておいて!」


 ネルソンの顔は悲しそうだった。止まったはずの涙が、また溢れてきそうな気配を見せ始める。それを塞き止めたい一心で、ドローレスは下を向く。


「私の事なんてどうでも良いって思ってるのに、そんな顔をするなんて卑怯よ! さっさとヒルダさんのところへ戻りなさい!」


「ヒルダ?」


 ネルソンが不思議そうに聞き返す。ドローレスは、そんな馬鹿らしい芝居に付き合うのは御免だと思った。


「私より彼女の方が大切なんでしょう? 私を迎えに来た時も、この大修道院へ来た時も、ずっと彼女を傍に置いたりして……! あの時だってそうだわ! あの森へ行った帰りに偶然ヒルダさんに会って……。ネルソンさん、あなた、自分が何をしたのか覚えている? あの森であった事……湖が綺麗だったとか、藍色の鳥がいたとか、そんな事をあの人にペラペラ喋ったのよ! 私たち二人だけの時間だったのに! 私はその事を他の誰にも話していないのに……」


 泣き叫ぶように思いの丈をネルソンにぶつけている内に、どんどん気分が塞ぎこんで声が小さくなっていく。もはや怒りなのか悲しみなのかも分からない感情が、ドローレスを翻弄していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ