聖女となったのは……
「あの子は、昔からああいう子ですわ」
ヒルダがネルソンを労わるように言った。
「いつだって自分が正しいと思っていますのよ」
「正しい、か」
ヒルダの声は優しい。だが、今のネルソンに必要なのは慰めではなかった。
「ヒルダ、どうしてクレアは聖女だと見なされているんだろうな」
「えっ?」
出し抜けに切り出したネルソンに、ヒルダは戸惑うような声を漏らす。
「君は前に言ったな。クレアには特異な力なんて何もないと。……僕もそう思うよ」
――このゲームで、『聖女』という役割を与えられただけの普通の子です。
かつてのヒルダの台詞をネルソンは反芻していた。
「では、何故彼女は『聖女』足り得るんだ?」
「それは……クレアが、この『あいの聖女に祝福を』というゲームの主人公だからですわ」
ヒルダが推論を述べる。だがネルソンは、「いや、違う」と首を振った。
「クレアが本編でドローレスさんと愛を集める競争をして、それに勝ったからだ。それまでは、二人のどちらも聖女になれる可能性があった」
大修道院長のモリスの言葉を借りれば、神が与えたのは、ただの『概念』だったという訳だ。『青嵐の鬼女』という『概念』と『青藍の聖女』という『概念』。二人はゲームシステム上で特別な役割を与えられただけの、普通のキャラクターだった。
ネルソンの頭が少しずつ冴えていく。パズルのピースがはまっていくように、欠けた部分が補われ、全体が見えてくる。
ネルソンは幼い頃からヒルダとこの世界について語り合っていた。その時に、こんな感覚は何度も味わった事がある。この世界の理を解き明かしているという実感だ。
ネルソンは直観していた。自分の考えている事は、恐らく正しいのだと。
「ドローレスさんが『聖女』に選ばれる未来だってあったんだ。そう……バッドエンドとして、だけど」
だが、そうはならなかった。クレアは見事に愛の競争を制し、このゲームを一番良いエンディングへと導いたのだ。




