鬼女に救済を
「あなた……何を言っているのよ」
それまでクレアに気圧されていただけだったドローレスだが、やっとまともに頭が働きだした。それでも、動揺しているためか、上手く言葉が出て来ない。
「私がネルソンさんを不幸にしているですって……? そんな……そんな事……ある訳ないでしょう……?」
自分で言っておいて、ドローレスは猛烈な違和感に襲われた。そんな事ある訳がない? 本当に? 自分は青嵐の鬼女なのに? 人を不幸にしてしまうのが自分の定めなのに?
そう思った途端、途方もない罪を犯している気がして、ドローレスの顔が歪んだ。それと同時に怒りが込み上げてくる。
「私はあなたのための犠牲になんかならないわ!」
ドローレスは、力任せにクレアを突き飛ばした。何故自分が聖女の力の増強に付き合ってやらねばならないのだ。
クレアは床に転がった。だが、動じた風もなくこちらを見ている。
「……これは犠牲ではなく、救済です」
クレアがゆっくりと立ち上がった。そのぬらりとした仕草に、ドローレスは次に発する言葉を見失ってしまった。
「救いが欲しくはありませんか?」
クレアが囁く。そのじっとりと湿った肉声に、ドローレスは心を犯されたような心地になる。
「あなたが笑顔でネルソンさんを手放してくれれば、それでいいんです。その事で、たくさんの人が幸せになれる。自分はたくさんの人を救った。その事実が、あなたの心を慰めるんです」
ドローレスは息も出来なかった。クレアは見抜いているのだ。鬼女となったドローレスが、一番不幸を与えているのは、他ならぬドローレス自身だという事に。その事で、ドローレスが苦しんでいるという事に。
その事に気が付いた瞬間、迸る火花のような羞恥がドローレスを襲った。憤りで顔を赤くしながら、ドローレスは叫んだ。
「あなたなんかに何が分かるっていうのよ!」
自分の苦しみも苛立ちもクレアなんかに理解してほしくない。理解されてたまるものか。ドローレスは踵を返して、そのまま談話室を出た。




