監視
あの呪いの人形事件以来、ネルソンに対するヒーローたちの態度が一変した。それまでは、クレアの未来のハーレムメンバーとして歓迎ムードだったのが、とても冷淡になったのだ。そして、ついにはこんな台詞まで飛び出す。
「今日から、君を監視させてもらいます」
ある日、ヒーローたちがネルソンのもとにやって来た。やけに物々しいその様子に、何事だろうと思っていると、四人を代表してルースがそう切り出してきたのだ。
「君が少しでも怪しい事をしたら、我々は断固とした処置を取りますから、覚悟しておいてください」
「まったく、残念だぜ。あんたとは仲良くできそうだと思ってたのによ」
高圧的な態度を取るルースに対して、ロビンは覇気のない顔になっていた。
「君はクレア様の愛欲しさに歪んでしまった……。悲しい事だね」
「呪いは完遂しない。私たちがクレアを守る」
カルヴァンとセシルも好き勝手な事を喋る。監視だなんて迷惑な話だとネルソンは思ったが、彼らの態度は頑なで、どうやっても引く気はなさそうだった。
(まあ、しばらくしたら諦めるだろう)
何せ、ネルソンは寄ってくるクレアを拒絶はしても、自分から彼女に危害を加えようと思った事は一度もないのだ。そんなネルソンを見ていれば、その内彼らの考えも変わるだろうと思っていた。
だが、これは大きな間違いだった。
その日から、ネルソンはどこに行くにもヒーローたちにつけ回されるようになった。修道院での奉仕活動中、食事の間、自由時間、どの瞬間を切り取っても、ネルソンが一人でいられる時間は消え去ってしまった。
寝ている時でさえ、部屋の外に見張りが立っていて、一時間に一回ドアを開けられ、ネルソンが本当に中にいるのかを確かめてくるのだ。
そんな事がしばらく続いて、ネルソンは精神的に疲労していった。ヒーローたちだって、見張りなんて面白くも何ともない事を四六時中するのはかなりの負担になっているはずだが、愛するクレアの身の安全を確保するという使命感に突き動かされているのか、全く弱っていく気配がない。
そんな疲れ知らずの集団に来る日も来る日もつきまとわれ、ネルソンは気が狂いそうになっていた。
(一体どうしたら納得してくれるんだ……)
ヒーローたちに囲まれる日々を送る中で、ネルソンは毎日のように必死で考えていた。
だが、何の案も浮かんで来ない。犯人が捕まればいいのだろうが、疲れ切っている今のネルソンには、犯人探しをする余裕なんてとてもなかった。
それに、下手に行動を起こせば、ヒーローたちがそれを過剰に受け止めて、また騒ぎ立てたりするかもしれないのだ。これ以上監視の目が厳しくなるのは、ネルソンとしては御免だった。
ネルソンは何だか無性にドローレスに会いたくなっていた。癒しが欲しいのかもしれない。彼女の傍にいると、いつだって心が休まっていくのだ。
しかし、彼女とは疎遠になっていた事を思い出す。今会いに行ったって、きっとドローレスは歓迎してくれないだろう。精神的にも参っている中でドローレスに冷たくされたら、さらに心にダメージを負う事は必至だ。
それに、彼女と仲直りしたくても、後ろにヒーローたちをぞろぞろと引き連れた状態で関係修復の申し出などしに行く訳にもいかなかった。
結局ネルソンは何も出来ずに、ただヒーローたちが諦めてくれるのを待つしかないという結論に毎回のように至るのだった。




