聖女の虜
「でも、それはおかしいですよ、ルースさん」
クレアもネルソンが犯人だなんて全く思っていないらしい。眉根を寄せてルースに反発した。
「どうしてネルソンさんが私を呪う必要があるんですか? それに、髪が金色の人なんて、この国にはたくさんいます」
今だけは、ネルソンもクレアに全面賛成だった。だが、ルースはネルソンを疑う姿勢を崩さない。
「クレア、覚えていますか? 私たちが最初にこの大修道院へ来た時、彼が言った事を」
ルースはネルソンに軽蔑の視線を投げた。
「彼は、クレアのハーレムの一員になる気はないと言っていました。自分がクレアの愛を独り占めしたいから、と」
「言ってない」
思わずネルソンは反論した。ルースは何も聞こえなかった振りをして続ける。
「ですが、それは叶わない望みなのです。クレアの愛は皆に平等に分け与えられるもの。彼はそれを悟ってしまった。可愛さ余って憎さ百倍、とでも言うのでしょうか。彼は自分だけを愛さないクレアを憎みました。そして、自分だけのものにならないのなら、いっそクレアを呪ってしまおうと……」
「馬鹿な事を言わないでくれ!」
聞くに堪えない推測に、ネルソンは悪寒を覚えた。
「僕はそんな事は考えていない。どうして僕がクレアの愛を欲さないといけないんだ」
「ああ、もうやめなさい、ネルソン」
嘆かわしそうにルースが首を振った。
「君のその態度、何だか不自然だと思っていたのですよ。私たちはクレアに選ばれた運命の男たち。我々は、初めこそクレアに何の興味も抱いていなくても、いつの間にかその不思議な魅力に憑りつかれてしまうものなのです。ですが、君には全くその兆候がない……」
すなわちルースは、乙女ゲームのヒーローたるもの、主人公のクレアにいつまでも無関心なのはおかしいと言っている訳だ。もっとも、この世界をゲームと自覚していない彼からすれば、そんな本質には永久に辿り着けないのだろうが。
「ですが、こう考えれば説明が付きます。君はすでにクレアに魅了されているにもかかわらず、それをひた隠しにしている……」
「おいおい、隠すって、何でそんな事する必要があるんだよ」
ロビンが口を挟んできた。だが、その口調には、ルースの推測を馬鹿馬鹿しいものだと考えているような響きはない。むしろ、一考の余地があると判断しているようだった。ネルソンは、ヒーローたちの自分を見る目が、少し前までと違ってきている事に気が付いた。
「先程も言ったように、彼がクレアのハーレムに入りたくないと考えているからです」
自分の味方が増えつつあると分かって、ルースの演説に気合が入ってくる。
「今クレアに対する好意を見せれば、彼女のハーレムに入って、そこでおしまいです。それを避け、自分だけが彼女一人に愛されるようになるには、どうすれば良いのかを彼は必死で考えていた。でも、それは無理な話なのです。やがて彼の愛は歪んでいって……」
クレアを呪ってしまおうと考えた。何て馬鹿らしい筋書きだ、とネルソンは思った。
「僕が愛しているのはドローレスさんだけだ」
ネルソンは、これ以上ルースが変な推理を披露しないように、釘を差すように言った。だが、ルースは「本当ですか?」と疑ってくる。
「男たるもの、愛する女性はいくらいても不思議はないと思うがね」
カルヴァンもルースの肩を持つ。
「それに、お前は今、その愛しの恋人と破局しかかっているそうじゃないか」
思い出したようにセシルが言った。痛いところを衝かれたネルソンは、むきになって「そんな事はない」と言い返す。
「少し喧嘩しただけだ。すぐに元に戻る」
「どうだかなあ」
ロビンが揶揄するように漏らした。




