愛が枯れる前に
「何を作っているんですか?」
怪物のような形相になっているドローレスを無視して、クレアがこちらに近づいて来た。ドローレスがクレアを追って来ないのは、クレアのハーレムメンバーたちが垣根を作って、ドローレスをその場から動けなくしているためだ。
「わあ、お魚ですか? ピンクと水色の水玉模様だなんて、初めて見ました! こんな生き物を知っているなんて、ネルソンさんは物知りなんですね!」
「こんな魚なんているはずありませんわ。これはアザラシです」
ヒルダが、さりげなくネルソンとクレアの間に入って来た。
ヒルダが放火犯だという疑惑が晴れた後、クレアは姉を疑ってしまった事を一応謝罪したようだった。だが、ヒルダはまだクレアの事を許してはいないらしい。ヒルダが双子の妹を見る目は、どこか冷たかった。
「あら、姉様もいたんですか」
クレアは、今し方ヒルダに気が付いたようだった。姉が作ったぬいぐるみを見て、ぽかんと口を開く。
「変わったものを作ったんですね。綿ぼこりの怪人ですか? 姉様って、相変わらずお裁縫が下手なんですね」
クレアはクスクスと笑った。
「ネルソンさん、聞いてください。私、お裁縫、とっても得意なんです。昔から、皆に腕前を褒められていたんですよ! 他にも、美味しいお菓子も作れますし、歌だってすごく上手に歌えます」
クレアは自分の特技をこれでもかとアピールした後に、ネルソンが制作した魚型のアザラシのような犬のぬいぐるみを手に取った。
「でも、こんな面白いものは私には作れません。ネルソンさんって本当に素敵です! 今度、私のためにお人形か何か作ってくださいね!」
ガタン、と大きな音がした。先程までドローレスが座っていた椅子が倒れている。どうやら、これ以上クレアと同じ空間にいる事に耐えられなくなったドローレスは、どこかに行ってしまったらしい。
「……クレア、あっちへ行っていてください」
妹に刺々しい視線を送りながらヒルダが言った。
「あなたって、本当に無自覚に人の神経を逆撫でするのがお得意なんですね」
「えっ、何がですか?」
クレアはきょとんとしている。やれやれとヒルダは首を振った。
「ネルソンさん、クレアは、本当は、手先は不器用だし、料理の腕はいまいちだし、すごく音痴なんです。騙されないでくださいね」
「姉様、どうしてそんな嘘を吐くんですか! 昔から皆が褒めてくれるんですよ! どれも上手に決まっています!」
「あなたって、本当に何も分かっていませんのね。まったく、そういうところが……」
二人は言い争いを始めてしまった。だが、ネルソンはヒルダに味方するでもなく、かと言ってクレアの話を真に受けるでもなく、ただドローレスが出て行った半開きのドアの先を見つめていた。
ドローレスは、クレアがネルソンに話しかけたから、怒って出て行ったのだろうか。だとするならば、まだドローレスのネルソンに対する愛情は枯れていない事になる。
(やっぱり、早く仲直りする方が良いのかもしれないな……)
ヒルダは向こうからの謝罪を待つべきだと言ったが、そんな忠告を無視してでも、ネルソンはドローレスとの仲を早く元に戻したくなってきた。
機会を見て、自分からドローレスに謝ろうとネルソンは決意した。彼女の自分への想いが冷めてしまってからでは遅いのだ。もしかしたら、今が最後のチャンスなのかもしれないのである。
だが、事件が起こったのは、ネルソンがそんな覚悟をした矢先の事だった。




