楽しいぬいぐるみ制作
「ヒルダ、これでどうかな?」
事件が一段落し、平和がやって来た。元のように穏やかな時が流れ始めた女子修道院にある裁縫室で、ネルソンは他の修道女たちと共にぬいぐるみを縫っていた。孤児院の子どもたちにプレゼントするためのものだ。
「あら、ネルソンさんって、随分独特なセンスをしていらっしゃいますのね」
ネルソンの隣に座っていたヒルダが、ぬいぐるみの腹に綿を入れる手を一旦止めて目を丸くした。
「これは……病気のアザラシでしょうか?」
「……犬だよ」
ネルソンは小さな声で答えた。
生地に水玉模様の布を使ったのがいけなかったのか、どうも不格好な出来になってしまった。大修道院に来る前に家事は一通り習ったのだが、どうしても裁縫だけは思うように上達しなかったのだ。簡単な繕い物くらいなら出来るのだが、ぬいぐるみを作るには、まだまだ修業が足りないようだった。
「……君のは……羊、かな?」
ネルソンがヒルダの作ったものをじっと観察しながら尋ねた。ヒルダは、「ええ!」と、はしゃいだ声を出す。
「可愛いでしょう? きっと子どもたちも喜びますわ!」
ヒルダには申し訳ないが、果たしてそうだろうか、とネルソンは思ってしまった。
ヒルダの羊は、あちこちの関節から綿が飛び出しているし、頭部には顔と思われる刺繍が施されているのだが、その表情がどうも不気味なのだ。一応は笑顔なのだろうが、それがかえって悪い。こんなものを子どもたちが見たら、泣き出してしまうに違いなかった。
「それ、僕がもらっておいてもいいかな?」
悲劇が起きる前に、ネルソンは恐怖の羊もどきを回収しようとした。
「あら、ぬいぐるみなんて、どうするんですの?」
「……一緒に寝る」
他に言い訳が思い付かなくて、ネルソンはとっさに嘘を吐いた。
「えっ、わたくしの作ったぬいぐるみと、ネルソンさんが一緒に寝るんですか?」
何故かヒルダは顔を真っ赤にしてしまった。
「そ、そんな。困りましたわ。でしたら、もっと可愛らしいものをお作りしますわよ」
ヒルダは震える手で、さらに羊の顔に縫い跡を足していき、さらに悲惨な生き物を創造してしまった。こんなものと添い寝しようものなら、悪夢にうなされる事は確実だ。
「そこの藁を取ってちょうだい」
ネルソンが哀れな羊のぬいぐるみの末路に心を痛めていると、つんとした声が聞こえてきた。すぐ傍に立っていたのはドローレスだ。




