ハンカチの持ち主
ネルソンはドローレスを連れて、大修道院長のモリスのところへ向かった。
何事だという顔をするモリスに、ネルソンはドローレスの部屋で見つけたハンカチを差し出した。
「ヘンリエッテ女子修道院長をここへ」
ネルソンは硬い表情で言った。
「彼女にお話があります」
ハンカチを凝視したモリスは、何も言わずにネルソンの言う通りにした。
呼び出されたヘンリエッテは、相変わらずの無表情だった。しかし、「何の御用でしょう」と尋ねる声には、呼び出された事に対する不満が現れていた。
「ドローレスさんの部屋に鳥の死体が投げ込まれていました」
ネルソンが静かに切り出す。モリスがわずかに目を見開いたのが、気配で分かった。
「傍にはこれが」
ネルソンはヘンリエッテに青い花模様のハンカチを突きつけた
「このハンカチは、あなたのものですよね?」
「ええ。そうです」
ヘンリエッテはハンカチに一瞥をくれた。
「僕が何を言いたいのか分かりますか?」
「鬼女様のもとに鳥の死体を寄越したのは私だ、という事でしょうか」
ヘンリエッテは面倒くさそうに答えた。
「私はそのような事はしていません」
「では、なぜハンカチがドローレスさんの部屋に?」
「見当もつきません」
ヘンリエッテはつっけんどんとした態度を崩さない。ドローレスが堪り兼ねたように口を開いた。
「ま、まさか、あの火事もあなたの仕業だったんですか?」
ドローレスは青ざめていた。
「あなたが、私を殺そうと……?」
「知りません」
にべもない返事をした後に、ヘンリエッテは冷たい声で続けた。
「何もかも天罰です。火事も、今回の件も、全て。全て、あなた様が招いた事です」
「わ、私が……?」
ドローレスは、ヘンリエッテの瞳に宿る暗い憎悪に動揺しているようだった。
「あなた様が聖女様を害そうとなさるからです」
ヘンリエッテの口元がゆっくりと歪んでいく。
「清らかな聖女様。この地上で最も尊い存在を守るために、神が制裁を……」
「おやめなさい!」
歌うように朗々とした声で話していたヘンリエッテを、モリスが遮った。その唇がわなわなと震えている。
「この愚か者が! 神の制裁……? あなたは、いつから『神』となったのですか!」
モリスは荒い息を吐きながら、机の上にあったベルを乱暴に鳴らす。それは、ネルソンたちが大修道院に来た時に、モリスがヘンリエッテを呼ぶために使ったものだった。
だが、今回やって来たのは別の修道女だった。遠慮がちに扉を開けるその女性を見て、ネルソンは「あっ」と声を上げそうになった。
「ソニア……?」
ヘンリエッテが訝しそうに呟く。彼女は、事件当日に納屋の傍にいたとして、ネルソンが聞き込みを行った人物だった。
「何故こんな所にいるのですか。今の時間帯のあなたは、倉庫の在庫確認をしているはずですよ」
「彼女は、自らの善の心に従ってこちらへ赴いてくれました」
ソニアの代わりに返事をしたのはモリスだった。
「ソニアが全てを話してくれましたよ」
モリスがソニアを目で促した。
顔を俯けたソニアは、どこも見たくないし、誰にも見られたくなさそうだった。それでも、話し始めたその口調は、しっかりとしていた。




