藍色の悲劇
結局、ドローレスの部屋につくまで、二人の間には一言の会話もなかった。きっとこのままネルソンを自室に招いても、ずっとだんまり通しだろう。
それは、仲がギスギスし出した二人にとっては、あまりに苦痛な時間となる事は明白だった。考えるだけで気が重くなりそうな時を過ごしたくなかったドローレスは、もう帰っていいとネルソンに言おうとした。
だが、その言葉は部屋の扉を開けた瞬間に悲鳴に変わった。
ドローレスの部屋に一匹の鳥がいたのだ。藍色のそれは、あの森に住んでいる鳥に間違いなかった。だが、生きてはいなかった。いかにも乱暴に扱われたかのように片方の翼はおかしな方向に曲がり、そこら中に抜けた羽根が散らばっている。
ドローレスは力なくその場にへたり込んだ。無様に床に転がるもう飛べなくなった鳥と、惨たらしく床に散乱した藍色の羽根は、目を閉じても瞼の裏に焼き付いて離れないようなショッキングな光景だった。
心臓が体の外に出てしまいそうな程に暴れ出して、ドローレスは服の胸元をきつく握る。気が動転して、息をするのも忘れそうだった。
一方のネルソンは、ドア付近に落ちた何かを拾っていた。それは小さな布きれのようだった。
「ハンカチ……?」
どう考えてもこの鳥の死体の方が異常なのに、ネルソンはその布きれから目を離そうとしなかった。ドローレスもつられてそちらに目を遣る。
ネルソンが持っていたのは、青い花の模様がついた手巾だった。ドローレスは、それをどこかで見た覚えがあるような気がした。
「なるほど……」
ネルソンは、鳥の死体とハンカチを交互に見つめながら小さく呟いた。
「行こうか、ドローレスさん」
ネルソンがドローレスの肩に手を置いた。
「多分分かった。色々な事が……」
どうやらネルソンは何かに勘付いたようだったが、それが何なのか、ドローレスには見当もつかなかった。




