親友と恋人
「……ネルソンさんは、どうしてあそこにいたの?」
少し気分が落ち着いて来たドローレスは、ネルソンの体にそっと寄り添いながら尋ねた。
「散歩しながら考え事をしていたんだ」
ネルソンが答える。
「午前中はヒルダの所へ行っていてね。彼女と色々話をして、怪しい人に思い当ったんだけど、どうやってその尻尾を掴むのが良いか考えていたんだ」
「そう、ヒルダさんの……」
ドローレスは、和らいでいた気分が少し硬化するのを感じた。
「そういえば、あの人が犯人だって皆言っているわね」
何気ない調子で切り出すと、ネルソンは少し驚いたようにドローレスの方を見て、「そんなのでたらめだよ」と言った。
「まさかドローレスさん、その噂を本気にしているんじゃないだろうな? ヒルダはそんな事をする人じゃないよ」
「……さあ、どうかしら」
ドローレスは、つい意地の悪い事を言ってしまった。
本当はドローレスだって、ヒルダが犯人であるなんて思っていなかった。だが、ネルソンが彼女を庇うような発言をしただけでなく、ドローレスを責めるような口調で尋ねてきたものだから、つい嫉妬を覚えてしまったのだ。
「だって、まだちゃんとした犯人の手掛かりは掴めていないんでしょう? だったら、絶対にヒルダさんが犯人じゃないなんて言えないわ」
「そんな事はない。犯人が誰か、もうほとんど分かっている。もちろん、ヒルダじゃないって事も」
「いいえ。あれはヒルダさんの仕業よ。私、ちゃんと分かっているわ」
ドローレスは少しむきになって、さも確信ありげに言った。
「私、初めからヒルダさんの事が怪しいと思っていたの。だって、大した理由もないのにこんな辺境の修道院について来るなんて、おかしいじゃない。きっと初めから私の命を狙っていたのよ」
「ドローレスさん、いくらあなたでも、その発言は看過できないよ」
ネルソンは、ドローレスの言葉に驚くと同時に不快になったようだった。
「ヒルダがここに来たのは、僕の事を心配してくれたからだ。それに、彼女はあなたの事だって、気に掛けてくれていたそうじゃないか。仕事をたくさん抱え込んでいるあなたを案じて、様子を見に来てくれたんだろう?」
「そんなの知らないわ」
ドローレスは躍起になって言い返した。これでは自分が悪者みたいになってしまう。
「とにかく、彼女やったのは間違いないわ。無駄な調査なんかやめて、早くヒルダさんを捕まえてきてよ」
「ヒルダは犯人じゃない。僕の親友を疑うのはやめてくれ」
「そう! そんなにヒルダさんが良いの!」
ドローレスは半ば自暴自棄になっていた。
「なら、そう思っていればいいわ。裏切られたって、私は知らないから」
ドローレスはつんとした表情でそっぽを向いた。だが、その途端に後悔が押し寄せてくる。せっかくネルソンに会えたのに、こんなつまらない事で意地を張って喧嘩をしてしまうなんて最悪だ。
ドローレスは、謝った方が良いだろうかと思って、こっそりとネルソンの様子伺った。しかし、彼の頑なそうな横顔に、そんな気は失せてしまう。
ネルソンは、もしかしたら自分よりもヒルダの方が大切なのではないだろうかという想いが代わりに頭をもたげてきて、ドローレスは胸の奥にもやもやとしたものが渦巻くのを感じていた。




