怪しい人
「……そんな事より、今は犯人探しですわ」
ヒルダは他にも何か話そうとしたみたいだったが、我に返ったような目つきになって話を戻した。その顔には、身に覚えのない罪を着せられた事に対する怒りが再び宿り出している。
「……君は、誰が犯人だと思っているんだ?」
ネルソンもそれ以上ヒルダの心の中に踏み込むのは何となく躊躇われて、話題を事件の犯人へと転換した。
「決まっていますわ! そのメリルとかいう修道女です!」
他に誰がいるんだとヒルダは言いたげだった。
「怪しすぎますわ、その方。それに……」
ヒルダは眉をひそめた。
「他の方々もおかしいですわ。その場にいなかったわたくしの姿を目撃している方が、そんなにいるなんて……。一人や二人なら見間違いで済みますが、こうも沢山いると何だか……陰謀の匂いがしますわね」
「陰謀……。修道院中がグルになって君をはめようとしているとでも?」
「ええ! その通りですわ」
ヒルダは干しかけていたシーツをきつく握りしめて、そこに深い皺を作った。
「でも、そんな事がありえるのか? あんなに大勢の人が口裏を合わせるなんて……」
「ありえますわ」
ヒルダは断言した。
「ねえ、よく考えてみてくださいよ、ネルソンさん。修道女たちが命令されたら、逆らえない相手がいるでしょう?」
「それってまさか……女子修道院長様の事か?」
ネルソンはヘンリエッテの鉄仮面のような顔を思い出しながらポカンとした。
「彼女がヒルダに罪を着せようとしている……?」
「絶対にそうですわ!」
ヒルダは大きく頷いた。
「メリルの事について何も知らない振りをしなさいと言い付けたのも、きっと女子修道院長様に決まっています! 身内から犯人を出したくなかったのでしょう。わたくしはここの修道女ではありませんから、罪を被せるのに最適だと考えたに違いありませんわ!」
「だが……その証拠は?」
ヒルダの言うように、状況から考えればヘンリエッテが今回の件に一枚噛んでいると見るのが妥当だろう。だが、それを証明する手立てについて、ネルソンは何も思い付かなかった。そして残念な事に、それはヒルダも同じようだった。
「証拠はありませんわ」
ヒルダは悔しそうに言った。
「……今のところは、ですけれど」
ヒルダは風にはためく洗濯物を見つめた。ネルソンはため息をつく。
「とにかく、まだ色々と調査してみるよ。何か分かったら、知らせに来るから」
「……ええ。そうしてください」
ネルソンはヒルダと別れ、その場から立ち去った。




