主人公の役目
「ヒルダ、君にとって、クレアはどんな人物だ?」
ふと気になってネルソンは尋ねた。
「君は、クレアの事が好きか?」
「馬鹿な事言わないでください!」
ヒルダは悲鳴のような声を上げた。
「わたしくしはクレアの事なんて……」
ヒルダは言葉を切った。顔を歪めながら黙ってしまう。
「嫌い……なのか」
ネルソンは意外には思わなかった。思い返してみれば、ヒルダが妹について語る時は、彼女の悪しき面ばかりを強調していたような気がするからだ。
「あの子は、『青藍の聖女』であるだけの普通の人間ですわ」
ヒルダは、ずっと昔の事に想いを馳せるような、遠い目をした。そして、まるで胃の腑に長い事溜っていたものを吐き出すように、ゆっくりと続ける。
「このゲームで、『聖女』という役割を与えられただけの普通の子です。周りに愛と祝福をもたらす力なんて、あの子にはありませんわ。クレアは少しも特別ではありませんの」
聖女には実は何の力もないのではないか。それはネルソンも疑問に思っていた事だ。どうやらヒルダも同じように考えていたらしい。
昔から、ネルソンとヒルダはあらゆるところで意見が一致していた。彼女と話していると楽しかったし、あらゆる発見があった。きっと今回も、意図せずとして二人は同じ結論を出したのだろう。
「クレアは、昔から『あなたは聖女』、『皆を幸せにする存在』、『たくさんの愛を振りまきなさい』と教えられて育ってきたのですわ」
ヒルダが苦々しそうに言った。
「あの子は自分が聖女以外の何者かである可能性なんて、考えた事もないのです。生まれながらの聖なる存在。今、自分の右耳に青のイヤリングが光っているのは、当然の事だと信じているのですわ」
クレアが本当の聖女であったと認定されるのは、この世界の自然な成り行きだ。だって、ここはゲームの中だから。主人公が聖女だと見なされなかったという事は、それすなわちバッドエンドを指す。要するに、そんなものは正しい結末ではないのだ。
ネルソンはバッドエンドを迎えたゲームがどうなるのかを知らなかったが、きっとろくな末路を辿らないだろうと思っていた。主人公の幸せなくしてゲームは成り立たないのだから当然だ。
そんな事など知るはずのないクレアだったが、彼女も幼い頃からの教育という形で自分の役割を自然と知覚していたのだろう。
つまり、クレアは自分にはこのゲームをゲームとして正しく終わりに――エンディングに導く役目があると、モブたちとは違った形ではあるもののきちんと理解していたのだ。




