濡れ衣
だが、おかしな事はそれで終わりではなかった。ネルソンがその後に他の修道女たちに行った聞き込みでは、誰も彼もが判で押したようにヒルダの事を話すようになったのだ。
曰く、納屋にいたような気がする。曰く、干し草や枯れ枝を集めていた。曰く、油の入ったツボを抱えていた――。
挙句の果てには、彼女が炊事場のかまどの火を分けてくれないかと頼みに来たのを見た、などという証言まで飛び出した。
それとは逆に、ヒルダが皿洗いをしていたはずの場所にいた者たちは、そこに彼女がいたかよく覚えていないとか、多分いなかったような気がしますね、とかの歯切れの悪い答えしかしてくれなくなった。
「濡れ衣ですわ!」
ネルソンが修道女たちから聞いた事を話すと、ちょうど農具の片づけをしていたヒルダは、真っ赤になって収穫用のハサミを地面に落としてしまった。
「皆して、わたくしを犯人に仕立て上げようとしているのですわ! わたくし、納屋になんて近づいてすらないんですもの!」
「ああ、もちろんだ、ヒルダ。僕も君が犯人だなんて思っていないよ」
ネルソンはヒルダをなだめつつハサミを拾った。それを受け取りながら、ヒルダは「当然ですわ」と言った。
「わたくし、何も知りませんもの」
まだつっけんどんとしているが、少し声のトーンが下がった。ネルソンが味方だと分かって安心したらしい。
だが、ネルソンのようにヒルダの無実を信ずるものたちばかりではなかった。あんまりにもヒルダの目撃情報が相次いだものだから、大修道院内に段々とヒルダが犯人なのではないかという見方が広がっていったのである。
運の悪い事に、ヒルダには動機もある。ドローレスは、ヒルダの妹のクレアをいじめていた。ヒルダは妹を助けるためにドローレスを亡き者にしようとしたのだと誰もが囁き合ったのである。
そしてついに、ある人物もその噂を真に受ける事態に発展してしまう。
「ですから、わたくしは何も知りませんわ!」
ヒルダ犯人説が大修道院内で日々濃厚になる中、ネルソンが心配になって彼女の元を訪ねると、広場から苛立った声が聞こえてきた。
「でも皆さん、姉様が犯人だと言っていますよ。それに姉様はこの間、大修道院長様に呼び出されたと聞きました」
言い争いの相手はクレアだった。クレアはヒーローたちを従えながら、洗濯物を干す姉の周りをうろちょろしている。
「姉様、罪を認めてください。私も一緒にドローレスさんに謝ってあげますから。私、今回の件は、自分にも責任があると思っているんです。私のために、姉様を人殺しにさせてしまうところだったのですから」
「何があなたのためですか!」
ヒルダはカチンときたようだった。
「そんな事する訳ないでしょう! あっちへ行きなさい、この高慢ちきがっ!」
ヒルダは、傍にあった空の洗濯籠をでたらめに振り回し始めた。クレアは「きゃあ!」と悲鳴を上げながら、ヒーローたちに庇われつつその場からほうほうの体で逃げ出していく。




