新たなる証言
だが、得られた成果はあまり芳しくなかった。ヒルダは、その時は別の仕事をしていたと言ったのだ。
「食堂で皿洗いをする事になっていた方が、手を怪我してしまって仕事が出来なくなったので、わたくしがその代わりをしていましたの」
畑仕事をしていたヒルダは、一旦作業の手を止めて額の汗を拭いた。
「誰かの代役や、人手が足りないところに助っ人で入る……。こういう事、よくありますのよ。男子修道でもそうではなくって?」
ヒルダの言う通りだった。ネルソンも急病で倒れた修道士の代わりに、家畜小屋の掃除当番を代わった事がある。
「ですから先程ネルソンさんが見た記録は、実はあまりあてにならないもののような気がしますわ」
ヒルダは気の毒そうに言った。ネルソンはがっくりくしてしまう。せっかく手がかりを得られたと思ったのに、これでは振り出しに戻ったも同然だ。
しかし、諦めきれなかったネルソンは、資料室にあった事件当日のメリルの業務記録について、あの二人の修道女――ケイとソニアに話してみる事にした。
「メ、メリルですって……!?」
その名が出た途端、ケイは飛び上がらんばかりに驚いた。
「し、知りません! あ、あたしは、な、何……何も……!」
「ああ……えっと……その……」
二人の修道女は真っ青になって慌てふためき、どこかへと行ってしまった。あからさまに怪しい態度だ。ヒルダは、記録はあまりあてにならないと言っていたが、ネルソンは確信した。メリルはこの件に関わっているのだ。そして、あの二人はその事について何らかの情報を持っている。
(だとするならば、どうやってでもそれを聞き出さないと……)
今度こそ逃がすまいとネルソンは二人の行方を追った。あの二人が本当の事を話してくれるまで、どこまででも付きまとってやる覚悟である。
修道院中を探し回った結果、ネルソンはやっと二人を見つけた。彼女たちは、ちょうど女子修道院長の執務室が入った建物から出て来るところであった。
ネルソンは威勢よく審問を開始しようとした。しかし、ネルソンが何か言う前に、ケイが今までとは全く違った事を話し出す。
「そう言えば、ヒルダさんを見ましたよ」
やや目を泳がせつつもケイが言う。
「納屋の近くをウロウロしていました。何だか、松明を沢山持っていたような気がしますね」
「ヒルダが?」
まさかの言葉にネルソンは目を丸くした。
「そんな馬鹿な。ヒルダは、その時間帯は別の所で皿洗いをしていたはずだ」
「でも、あたし、見たんですもの。……でしょう? ソニア」
ケイは、顔を俯けて黙っている同僚に同意を求めた。ソニアはしばらく間を置いて小さく頷く。ほら、と言わんばかりにケイがネルソンを見た。
「じゃあ何故、初めに僕が誰か見なかったかと尋ねた時に、知らないなんて答えたんだ」
「今思い出したんですよ」
ケイは言い訳がましく言った。
「とにかく、あたしたちが見たのはメリルじゃなくて、ヒルダさんなんです。……これで、お話しできる事は全て伝えましたよ。それじゃあ……」
ケイはソニアと一緒に去ろうとした。しかし、ソニアは動かなかった。恐る恐る顔を上げて、ネルソンの方を見る。その目が何かを訴えかけているように感じられて、ネルソンは「どうした?」と尋ねた。
「ソニアっ!」
ソニアの唇が開かれるのと、ケイが大声を上げるのが同時だった。ケイがソニアの肩をがっちりと掴む。
「ほら、行くわよ!」
ケイはソニアを強引に連れ出してしまった。結局、彼女が何を言いたかったのかは分からずじまいだ。




