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乙女ゲームですから

「少しでいいんだ。何か手がかりになりそうな事なら、何でも……」


 ネルソンは、ソニアに顔をぐいっと近づけた。何となく、彼女の方が押しに弱いように見えたのだ。力み過ぎて手まで握ってしまう。ソニアは「ひえっ」と悲鳴を上げ、腰を抜かしてしまった。


「ですから、知らないんですっ!」

 

 それを傍で見ていたケイは真っ赤になって、手にしていたタライでネルソンの頭を思い切り殴った。そして、ネルソンがひるんだ隙に地面で呆けている仲間を引きずって、どこかに行ってしまった。

 

 つい先日まで女子修道院は男子禁制だったために、彼女たちは男性慣れしていないだけでなく、美青年に触れられた事など初めてだったので、ひどく取り乱してしまったのである。


 だが、そんな事とはまるで知らないネルソンは、少し強引すぎたか、と反省しながら、タライが直撃した箇所を手のひらでさすった。それと同時にある疑いが浮上する。


(本当は……何か知っているんじゃないのか……?)


 ネルソンは、二人の動揺を、嘘を誤魔化すためのものだろうと結論付けた。


(知っていて、何も言わない? 何のためだ?)


 犯人を庇っているのだろうか。だとするならば、あの二人に近しい人物が火を放ったのかもしれない。一考の余地があると思い、ネルソンはこの考えをメモしておく事にした。


 もし彼が推理ゲームの主人公なら、こんなメモを沢山集めていけば、おのずと犯人に近づけるのだろうが、残念ながら乙女ゲームのキャラクターであるネルソンには、そんな特殊能力は備わっていなかった。彼が犯人を挙げるには、地道に調査をしていくしかない。


「やあ、色男。振られてしまったようだね!」


 二人が去っていった方を見ているネルソンに、愉快そうな声が掛かった。何だか嫌な予感がして振り向くと、そこにはカルヴァンが立っている。もちろん彼は、他のヒーローたちと一緒にクレアの供をしていた。


「君がドローレス様以外の女性に興味を持つようになったとは嬉しいよ。やっとクレア様を受け入れる準備が出来たという事だからね」

「何の用だ」

 ネルソンはカルヴァンを無視してクレアに話しかけた。クレアは朗らかに笑う。


「私も何かお手伝いをしようと思って」

 クレアは、修道院の敷地をぐるりと見回した。


「ネルソンさんは、あの火事が事故ではないと考えていると聞きました。そして、その犯人を見つけようとしているとも……。こういうのは、人手が多い方が良いでしょう? 私たちも手を貸しますよ」

「つまり……一緒に犯人を捜してくれる、と?」


 ありがたい申し出にネルソンの心が一瞬動きかけた。だが、はっとなる。前にもこういう事があった。ドローレスが行方不明になった時だ。ネルソンは当時を思い出して、恐る恐るクレアの頭上を見つめた。そして、叫び声を上げそうになる。


「結構だ! 失礼する!」


 ネルソンは肝を冷やしながら、そのまま一目散に駆け出した。好感度ゲージが上昇していた。あれは見間違いなどではない。ヒーローの弱いところを確実に突いてくるなんて、まったくクレアという娘は油断も隙もない主人公だ。

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