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暴露

 ドローレスとネルソンは森の外に出た。密な時間を過ごしていたので、もう随分長く森の中にいたような気がするが、実際にはそんなに時は経っていなかったらしく、まだ日は高かった。


「さて、納屋の整理と道具の手入れだったかな?」

 ネルソンが伸びをしながら言った。


「さっさと片付けよう。二人で取り掛かれば、きっとすぐに……」


 ネルソンが言葉を切った。向こうからやって来た人物に気を取られたようだ。ドローレスは、すぐにそれがヒルダだと気が付いた。


「やあ、ヒルダ」

 ネルソンが呑気に挨拶した。


 いつものドローレスなら、ヒルダの姿を見て複雑な気分になっただろう。しかし、今は違った。ドローレスは自分でも驚いた事に、彼女の存在を余裕を持って受け止められたのだ。先程の特別な思い出が、ドローレスを支えてくれたのである。だが――。


「さっき、森の湖へ行ってきたんだ」

 ネルソンは、世間話をするような何気ない調子でヒルダにそう言った。


「藍色の鳥がいて、とても楽しかったよ」


 あっさりとそんな事を口にするネルソンに、ドローレスは愕然となった。彼は、二人だけの秘密の時間を、いとも容易くヒルダに話してしまった。


 もちろん、内緒にしておこうと約束をしていた訳ではない。だが、ドローレスは無意識の内に、ネルソンもあの出来事を特別視して、自分の心の中だけにしまっておいてくれるのを期待していた。


(ネルソンさんにとっては、あんなの、大した事じゃなかったっていうのかしら……?)


 ドローレスはショックのあまり呆然とした。ひどい裏切りにあったような気分になり、唇を噛む。先程まで辺りに満ちていた幸福がしぼんでいくのを感じていた。


(少なくとも、こんなに軽く他人に明かしてしまうくらいには、どうでも良い事だったんだわ……)


 かけがえのない思い出を汚されたような気分だった。しかし、腹は立ってこない。その代わり、心の中に砂漠が広がっていくように、空虚なものが自分の中を埋め尽くしていく。


「それどころではありませんわ!」


 落胆していたドローレスだったが、飛んできたヒルダの声にはっとなった。思わず彼女の方に視線を遣る。ドローレスは、その時初めてヒルダの様子がおかしい事に気が付いた。


 唇は硬く引き結ばれ、表情は強張っている。眉間に深い皺が刻まれたその様は、まるで何か重大な事件に遭遇してしまったかのようだった。


「ヒルダ……? どうしたんだ?」


 そのただならぬ様子に、ネルソンも何事だろうと訝った。ヒルダは大きく深呼吸して話し出す。


「ドローレスさんがあなたと一緒だったのは、幸いでした」

 

 ヒルダはそれ以上は説明する気になれなかったようだ。「来てください」と言って踵を返す。


(何なの、一体……)


 ドローレスは言いようのない不安に駆られた。何があったのか全く予想は出来ないが、恐ろしい事態が発生したのだという事だけは理解できた。


 ドローレスはネルソンと顔を見合わせた後、ヒルダについて行った。

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