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焼き菓子と恋人と小鳥

 不意に髪を撫でるネルソンの手が止まった。ドローレスが顔を上げると、彼の肩に一羽の小鳥が止まっている。


「この鳥……ドローレスさんみたいだ」

 ネルソンは笑った。その鳥は、藍色の羽をしていたのだ。


「私も構いなさいって、言いに来たのかしらね」

 

 ドローレスはクスクスと笑って、まだ残っていた焼き菓子を小さく砕くと、それを小鳥にやった。すると小鳥はそれを美味しそうについばんで、今度はドローレスの肩に乗ってきた。


「甘いものが好きなんだね」

 おかしそうにネルソンが言った。まるで、そんなところもドローレスと似ていると言いたげだ。


「可愛いな」

 

 まるで自分が褒められたかのように感じて、ドローレスの心臓の鼓動が少し速くなる。


 ここで食べた焼き菓子の甘さも、過ごした特別な時間も、この藍色の鳥も、全て宝物のように輝いているように感じられた。


 自分とネルソンの二人だけが知るこの瞬間。ドローレスは、この思い出を大切に心の奥にしまって、決して他人には話さないでおこうと誓った。秘密は、隠匿されている間が一番価値があるのだ。


(今日の事を覚えている限り、私はまだ頑張れるわ)

 

 たとえどんなに辛く当たられようとも、この美しい思い出が自分を支えてくれる。そう思うと、何だか無敵になったような、勇ましい気分だった。


 藍色の鳥がドローレスの肩から離れて行った。それを合図としたかのように、二人は立ち上がる。そのまま、手を繋いで森の出口を目指した。


「ネルソンさん、ありがとう」


 森の外れに大修道院の建物が見えてくると、ドローレスはネルソンに礼を言った。


「とっても楽しかったわ」

「僕もだ」


 ネルソンも幸せそうで、ドローレスはそれが何よりも嬉しかった。


「今度は、遠乗りに行こうか」

 気の早いネルソンは、次回の事にも言及し出す。


「……いや、大修道院の中しか走れないから、それは遠乗りとは言わないか」

「ふふっ。何でも良いわよ」

 ドローレスは笑いながら頷いた。ネルソンと一緒なら、どこへ行っても何をしても楽しいに決まっている。


 こうして幸福な思い出を積み重ねていけば、それこそどんな不幸が起こったって太刀打ちできそうに感じられた。

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