世界一の幸福
ネルソンの両手がドローレスの頬を包み込む。ドローレスが視線を上げると、ネルソンの顔が思ったよりもずっと近くにあって、ときめきを覚えてしまった。
ネルソンは綺麗な顔をしていた。目元は涼やかで唇は引き締まり、少し癖のある髪が優雅に額にかかっている。眉毛の生え際まで美しいその容姿は、男らしさと繊細さが絶妙に合わさって、見る者を引きつけずにはおれないのだ。
だが、それでいて身体つきはまさに男性と言った風で、シャツの襟ぐりから覗く首筋や鎖骨のラインは艶っぽく、広い肩幅から連想されるのは彫刻のように逞しげな肢体だ。
少し筋張った大きな手や、しなやかな筋肉に覆われた腕を見ただけでも、あらゆる女性が彼に身を任せてしまってもいいのではないかと思ってしまう事だろう。
事実、ドローレスも何人かの修道女が彼に対して陰から熱っぽい視線を送っているのに気が付いていた。と言っても、ドローレスが悋気を抱く程に何かをしてくる修道女は皆無だったが。
しかし、ドローレスは、彼の魅力はそんな男性的な逞しさの他に、その内面にもあると思っていた。
甘いものが好きだったり、二人きりになると甘えてきたり、そういった部分が堪らないのだ。可愛らしい、とでも言うのだろうか。男性を褒めるのに適切な言葉ではないのかもしれないが、ドローレスはそんなネルソンが好きだった。
それに何より、彼が自分を見つめてくる、その熱の籠った真っ直ぐな視線に、ドローレスはいつも恍惚とした気分になるのだ。彼に見つめられるだけで、ドローレスは自分がこの世界で最も価値のある存在だと錯覚してしまうのである。
「好きよ、ネルソンさん……」
気持ちが高ぶってきたドローレスは、うっとりと囁いて、ネルソンの唇にキスをした。
ドローレスに対して気遣わしげな視線を送っていたネルソンは、突然の事に驚いたようだったが、今、恋人が何を一番に欲しているのかすぐに気が付いて、目元を和らげた。楽しそうに笑って、少しこちらに体重をかけてくる。
口付けの主導権が少しずつネルソンに移っていく。どこか蜂蜜の香りがただよう彼の深い接吻を、ドローレスは背筋をしならせながら陶然と受けいれた。ネルソンとのキスは、いつだってドローレスの心を蕩かして、極上の心地にさせてくれるのだ。
キスが終わってもその甘い陶酔から抜け出せずに、ドローレスはぼうっとなったままネルソンの膝に座って、その首筋辺りに頬を寄せていた。ネルソンが髪を撫でてくれている。その手つきがたまらなく心地いい。
だが、それだけではなかった。ネルソンは、少し顔を近づけてきたかと思うと、今度は耳元で愛の言葉を囁きだしたのだ。その甘く掠れた低音に、ドローレスは耳から芳醇な蜜を流し込まれたような心地になる。体の隅々まで巡る甘美な喜びに、ドローレスの胸は熱くなった。
ここに来る前に感じていた惨めな気分が、嘘のように霧消していた。恋人と過ごす密かな一時。これ以上の幸福なんて、この世界にはないような気がしていた。




