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残ったもの

「ドローレスさん。これ、良かったら……」


 ネルソンが横たわったまま、懐から小さな袋を出してきた。「何?」とドローレスは尋ねつつも、開封する。中に入っていたのは小さな焼き菓子だった。


「わあ、美味しそう!」

 ドローレスは歓声を上げた。「食べてくれ」とネルソンに促されるままに、きつね色にこんがりと焼けた菓子を一口頬張る。


「美味しいわ」

 ドローレスはうっとりとした。


 仄かに蜂蜜の香りがして、上品な甘みが舌の上に広がっていく。爽やかな酸味を感じるのは、中に乾燥させた果物が入っているからだろう。


 食堂でいつも出て来る家畜の餌みたいな食事に辟易していたドローレスは、この焼き菓子が今までの人生で食べた料理の中で一番美味なのではないかと本気で思った程だった。


「どうしたの? これ」

「大修道院に出入りしている商人から、売れ残ったものをもらってきたんだ」

 ネルソンも焼き菓子を一つ摘みながら答えた。


「ドローレスさんは甘いものが好きだから、気に入るかと思って」

「ええ。私、この味好きよ」

 ドローレスが微笑むと、ネルソンは「良かった」と満足そうに言った。


「今度、その商人にこれを作った人に作り方を聞いておいてもらうように頼んでおくよ。そうすれば、いつでも食べられるからね」

「もしかして、ネルソンさんが作ってくれるの?」

「もちろん」

 ネルソンは当然とばかりに頷いた。


「ドローレスさんが食べたいと思った時には、いつでも作るよ」

「ネルソンさん……」


 ドローレスは、不意に泣きたいような気持になった。先ほど食べた焼き菓子の甘さが、心の内にまで染み渡っていくようだった。心が揺さぶられるような歓喜。それは、ネルソンが宿に来てくれた日に知ったのと同じ感情だった。


 青嵐の鬼女が自分であると発覚した時には、何もかも捨てなければならないと思い込み、絶望していた。だが、こうしてきちんと手元に残ったものもあったのだ。


「ドローレスさん? どうしたんだ?」


 ドローレスが顔を俯けて黙り込んでしまったので、ネルソンは心配になったのか体を起こし、こちらに手を伸ばしてきた。

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