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森の中の湖

 木の葉に遮られた陽光が差し込み、澄んだ匂いが辺りに充満する。


 その日、ドローレスとネルソンは、大修道院の敷地の中にある林に来ていた。この大修道院の施設はどれもとても大きく、この林だってどちらかと言えば森のようだ。誰かが定期的に手入れをしているのか、歩きやすく過ごしやすい、気持ちの良い場所である。


「ねえ、本当に良かったのかしら?」


 ドローレスは、隣を歩くネルソンに遠慮がちに話しかけた。


 屋根の上に置き去りにされた日以降も、ドローレスは修道者たちに辛く当たられていた。今日だって、本当は納屋に置かれた道具の手入れと整理整頓を頼まれていたのだ。


 納屋のあまりの広さと道具の多さにドローレスが呆然としていたところにネルソンが現れて、気分転換に森にでも行かないかと誘ってきたのである。


 陰鬱な気分になっていたドローレスは、それを解消したくて衝動的にネルソンについて来てしまったが、仕事を放り出して良かったのだろうかと、今になって不安になってきたのだった。


「帰ったら、僕も手伝うよ」

 ネルソンはそう言って、ドローレスのしなやかな手を握った。


「今は、僕の事だけを考えていてくれると嬉しいんだけど」

「……ええ」


 心配するような、少し甘えたような声色にドローレスの胸は高鳴って、思わず頷いてしまった。彼の指先から自分に対する温かな愛情が伝わって来て、言葉の通り、ネルソンの事しか考えられなくなってしまう。


 ドローレスたちはしばらくして、開けた場所に辿り着いた。目の前には湖が広がっている。こんなものまで敷地内にあるとは驚きだった。もしかして、元々森か何かだった所に大修道院を建てたのだろうか。


 大きな木を背にして二人は腰を下ろした。特に行先を決めて歩いていた訳ではなかったのだが、日の光に輝く湖面を見ていると、ここを目的地とするのがいかにも正しいように思えたのだ。


「良い所ね」


 ドローレスは近くの木の枝を小動物が駆けるのを見ながら、安らいだ気持ちになった。


「僕もそう思うよ」


 おもむろにネルソンは姿勢を崩すと、ドローレスの膝の上に頭を乗せて横になった。二人だけでいる時はよくこういう事をするので、ドローレスは驚かない。慣れた手つきでふんわりとした金の髪を撫でてやった。


 風が波を作り、木の葉が楽しげに揺れる。時折水面に飛沫が立つのは、魚でもいるからなのだろうか。まるでのどかな風景を描いた絵画そのもののような、穏やかで平和な時間だ。

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