鬼女の居場所
「ネルソンさん!」
ネルソンが屋根の上にあがると、ドローレスがよたよたとした足取りで近寄って来て、ネルソンにもたれ掛かった。
「わ、私、雨どいの修理を頼まれていたの。それで、屋根の上に登って……」
ドローレスは、たどたどしく話し始めた。
「でも、上手くできなくて、やり方を調べてからにしようと思ったわ。そうしたら、は、梯子がなくなっていて……」
ドローレスは下に降りられなくなってしまったという訳だ。
「私、助けを呼ぼうとしたわ。でも、誰も近くにいなかったみたいなの。だから、私……」
ドローレスは、ネルソンの腕の中で顔を俯けてしまった。
高い所が嫌いなのに、半日以上も屋根の上に置き去りにされていたのだ。もう、ずっとこのままなのではないだろうかと不安で堪らなかった事だろう。
気丈なドローレスが怯えてそれ以上言葉を紡げなくなってしまう程の恐怖を、ネルソンは彼女の体の震えを通じて感じていた。
ここを捜索したルースとカルヴァンも、まさか自分たちが探している人が屋根の上にいるなんて思わなかったに違いない。
それに高い所が嫌いなドローレスの事だから、下を見続けて人が来るまで待とうなんて考えもしなかったはずだ。きっと屋根の縁からずっと離れた所にいて、震えながらうずくまっていたドローレスには、下に人がいた事なんて感知できなかったのだろう。
「ドローレスさん、無事で良かった……」
ネルソンは、安堵のあまり力が抜けそうになった。
「僕……てっきり、この大修道院からドローレスさんが出て行ってしまったのかと……」
「出て行く? そんな事しないわ」
ネルソンの服をぎゅっと掴みながらドローレスが言った。
「そんな事したってしょうがないでしょう? ここを出て、一体どこに行くって言うの?」
どうやら、ドローレスは冷静だったようだ。ネルソンは、ドローレスが自分を置いて出奔してしまったのではないかと疑った事が恥ずかしくなってきた。
「……私の居場所なんか、どこにもないのよ」
ドローレスが呟いた。
「外だけじゃないわ。本当はここにだって……」
それ以上は何も言いたくないのだとばかりに、ドローレスは黙りこくってしまった。




