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失恋の予感

「まだ探していない所がある! ドローレスさんが大修道院から出て行ったと考えるのは早計だ!」


 皆がネルソンをうさんくさそうに見た。ネルソンは必死の思いで続ける。


「男子修道院だ。あそこはまだ探していない」

「……そこにいなかったらどうするんだ?」

「それは……」


 ネルソンは言葉に詰まった。本当に出て行ったのかもしれないなんて、この人たちの前では口が裂けても言う訳にはいかない。


「とにかく、僕は男子修道院に行ってみる」


 素早くそれだけ言い残すと、ネルソンは足早にそこを離れた。しかしながら、胸のざわめきは止められない。


(ドローレスさんは本当に男子修道院にいるのか……?)

 

 自分で言っておいて、ネルソンは疑心暗鬼に駆られていた。仮にドローレスが男子修道院にいたとして、一体何の目的があって足を踏み入れたのだろう。修道士が女子修道院まで来て、わざわざドローレスに仕事を頼んだのだろうか。


 だとするならば、ドローレスは随分長い時間男子修道院にいる事になる。頼まれた仕事に、よほど手間取っているという事か。


(……最後にドローレスさんが目撃されたのは、宿舎の東棟辺りか)


 宿舎は、ここから男子修道院に行くまでの通り道にある。ネルソンは望み薄だと知りつつも、そこに行ってみる事にした。


 しかし、辿り着いても、案の定ドローレスの姿はなかった。彼女を見た人がいないか聞こうにも、この時間帯はまだ修道女たちは労働に勤しんでいるので、宿舎付近には人影がない。ネルソンはため息をついて宿舎の壁に寄り掛かった。


(ドローレスさんは一体どこに行ってしまったんだろう……)


 捜索隊にはあんな事を言ってしまったが、ドローレスがいたという痕跡すら見当たらないとなると、まさか本当に大修道院から出て行ってしまったのだろうかという考えが沸き出て来る。無理な仕事を沢山押し付けられ、ドローレスは疲弊していた。彼女には、出奔する動機がない訳ではないのだ。


 だが、もしそうなら、ドローレスはネルソンを置いていった事になる。それどころか、出発する事を黙ってさえいたのだ。


 ネルソンは、ドローレスがもし本気でここを出て行きたいと考えていて、もうその決意がどんなに説得しても変えられない程に固いのなら、彼女についていく事を選んだだろう。


 追放されたドローレスを追ってきたネルソンだ。その程度はしてしまうと、ドローレスだって分かっていたはずだ。


 それなのに何も言ってくれなかったという事は、もしかしたらついて来てほしくなかったのだろうか。まさか、自分はドローレスに捨てられてしまったとでもいうのか。


 失恋の妄想に囚われ、ネルソンは胸が苦しくなった。そんな事はあってほしくないが、可能性はゼロとは言い切れないのだ。


 ネルソンは絶望のあまり、今の自分ならクレアに屈してしまうかもしれないと思った。恋に破れたネルソンを、クレアはそれこそ聖女然とした慈愛に満ちた態度で慰めてくれるだろう。傷心のネルソンには、それが何よりの癒しになるかもしれない。そして、そのまま彼女の虜になってしまうのだ。


 灰色の未来を思い描きながら、ネルソンはがっくりとうなだれた。

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