聖堂へ
(まったく……最悪だ……)
口をへの字に曲げながら、ネルソンは女子修道院の敷地を歩いていた。
ネルソンが不機嫌になっている原因は、もちろん、今回の事件のせいでドローレスがひどい目に遭っている事だった。
ドローレスは、自分は何もしていないと懸命に訴えているにもかかわらず、誰もそれを信じていないのだ。皆、端から彼女が犯人だと決めつけている。
ドローレスは、確かにこのゲームの上では悪役だ。実際に聖女を決める競争の時にも、あれこれとクレアに嫌がらせをしていた。
だが、ドローレスのいじめはいつも単純明快で、良く言えば非常に堂々としていたのだ。今回のように姑息な手段に出た事なんて一度もない。だからネルソンは、事件の犯人はドローレスではないと思っていた。
それに、ネルソンはドローレスの口から直接、無罪を主張する旨を聞いていた。その時のドローレスはひどく憔悴した様子で、「ネルソンさんは、私を信じてくれる?」と聞いてきた。しおらしいドローレスの姿はなんとも健気で、ネルソンは何があっても彼女を信じようと決めたのである。
今のドローレスは、これまで暇を持て余していたのが嘘のように色々な仕事を押し付けられて、相当参っているようだった。
ネルソンが女子修道院に来たのは、こんな時こそ自分が傍にいてやらなくてはならないと考えたからだ。ドローレスの仕事を手伝って、その後に空いた時間があれば、気分転換に彼女と一緒に乗馬でもしようと思っていた。
ネルソンの記憶に間違いがなければ、今の時間のドローレスは、聖堂の窓掃除をしているはずだ。高い所なんかは手が届かないだろうし、自分が代わってやる方がいいだろう。そう考えながら、ネルソンは聖堂に足を踏み入れた。
しかし、ドローレスはいなかった。もう終わらせてしまったのだろうかと思ってネルソンは窓辺に近づく。だが、窓に嵌められたガラスは曇っており、とても掃除が終わった後には見えなかった。窓枠に指を滑らすと、かすかに埃が舞う。
「聖堂はまだ解放される時間ではありませんから、勝手に入ってはいけませんよ」
ネルソンが、ドローレスはどこに行ったのだろうと考えていると、入り口から入ってきた修道女に注意された。
「祈りに来た訳じゃない」
ネルソンは軽く手を振った。
「少し人を探していて……。今日、ここの掃除をする事になっている女性が、今どこにいるのか知らないか?」
「ええっ!? まさか、まだ掃除が終わっていないのですか!?」
修道女は仰天してしまった。
「困りましたね。サボりなんて、とんでもない! それとも、もしかしたら、まだ他の所にいるのでしょうか。確か昨日、デリカが書庫の整理整頓を言いつけていたようですし……」
「書庫? 分かった、行ってみよう。ありがとう」
ネルソンは礼を言って、修道女と別れた。




