夜の訪問者
「誰、なの……?」
もう消灯時間は過ぎているから、修道者たちは寝ているはずだ。だが、普通の人にとっても、今は人を訪ねるのには非常識な時間帯である。一体誰が来たのだろうと、ドローレスは訝しんだ。
ドアがそっと開いた。その姿を見て、ドローレスは一瞬体を強張らせる。クレアかと思ったのだ。
「失礼してもよろしくって?」
だが、訪問してきたのはヒルダだった。双子だけあって、この二人は顔がよく似ている。髪と目の色を除けば、瓜二つと言ってもいいだろう。あまり特徴の無い、しばらく会わなかったらすぐに忘れてしまいそうな、地味な顔立ちだ。
「……何かしら?」
やって来たのがクレアではなかったという事には安堵したが、ドローレスはまだ、どうもヒルダの事が好きになれなかった。こうして部屋を訪ねて来られても、あまり嬉しい相手ではない。
だが、そんな事を知る由もないヒルダは、中に入って来て傍にあった椅子に腰かけた。
「何となく、ドローレスさんの様子が気になったんですの」
「私の?」
「ええ、色々とお仕事を頼まれているようですから」
ヒルダが上目遣いでこちらを見てきた。
「大丈夫でしょうか、と思いまして」
どうやら、彼女は自分を心配して様子を見に来てくれたらしい。そんな人に苦手意識を抱いているなんて、ドローレスは自分が恥ずかしくなった。
「……まあ、何とかね」
「嘘おっしゃい」
動揺して適当な返事をしてしまったドローレスに、ヒルダが険しい視線を向ける。
「目の下に隈が出来ていますわ。あまり寝ていないんでしょう?」
「……ええ」
ドローレスは、自身も椅子に座り、ゆっくりと背もたれに体重を預けながら今度は本当の事を言った。
「する事が、沢山あるから」
ここ何日もずっとこの調子だ。ヒルダは、「それでは体を壊してしまいますわ」と眉をひそめた。
「少しお休みになってはいかが?」
「だめよ。サボってると思われると、余計に仕事が増やされてしまうし、食事ももらえなくなるから」
あんな食事でも、ないよりはずっとましだ。ヒルダは気の毒そうな顔になった。
「ひどい事になりましたね。一体、誰のせいでこんな……」
「クレアでしょ」
ヒルダのぼやきに、一旦は静まり返っていた憎しみの炎が再度加熱してくる。
「あの女、絶対に私が犯人だって言いふらしているのよ。そうに決まっているわ」
「……あなたは、クレアがお嫌いなんですのね」
「当たり前でしょう。……あなたには悪いけど」
きっぱり言い切った後、ドローレスは遠慮がちに付け足した。その程度の理性は、まだ残っている。




